noir #07
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何が正しくて幸せなのか、本当は誰も知らないのかも知れない。
「御園様は……社長は、この装置を事業展開しようとしていたようです」
「ダメだ!」
ポツリ、漏らした言葉に咄嗟に拒絶を示した。何故だろう、立夏自身その理由は分からなかったけれど、自分の中の言葉に出来ない感情が全会一致で拒否していた。
「……ふふ。あの頃の氷室と同じだ」
「え?」
「今の立夏さんみたいに、彼も頑として譲りませんでしたから」
IQ180を越える万能科学者はリスク面を考慮し、その技術の一切を譲渡しなかったという。カラクリを知るただひとりの人間を手放すわけにもいかないという事情を充分理解していた彼は、術語経過を見守るという名目で更なる研究の場を確保することを条件に、御園家の執事となることを承諾する。実際、何事も人並み以上にこなす男に執事職は難しくはなかった。
「時丘さんは、何でもご存知なんですね」
「……さすが、御園家の跡取り」
もうすべて腹に収めましたか。そう言って訪問者はにっこり笑った。
「僕は───彼に科学を教えた人間です」
「氷室の、恩師…?」
「僕が与えたのは本当にさわりの知識でしかなかった。相性がいいと言ったらいいのか、彼は水を吸うように次々と難題を越えていきました。 それは見ていて本当に気持ちがいいくらい……」
ふと、遠くを見るように顔を上げ、目を細める。その先にある遠い面影はどんな表情をしているのか立夏には予想も出来なかった。
「初めて彼に会ったのは彼が9つの時です。まだ幼さの抜け切らない顔で、それでもその知能がズバ抜けて凄いことはすぐ分かった。その5年後、まさかGSMを創り出すなんて……」
分かっていたことだったが、氷室が御園の家に入ったのは彼が14歳の時なのだ。改めて考えてもその知能と技術力に眩暈がする。
「……あぁ、そういえば───」
眉間に指先を宛てていた立夏の思考を止めるように、傍らの青年が声音を変えた。
「なんです?」
「氷室が御園を継いで、あなたを彼に嫁がせるというシナリオも用意されていたことを思い出しました」
「どのみち氷室は御園に入ると?」
「社長は随分と彼の才能を買っていたようです。けれど、やはり最後は血筋を考えてこの選択をされたと」
「血筋なんて……自分の子供の性別まで勝手に変えて?」
自嘲の笑みが闇に響いた。
多忙を理由に言葉すら交わさない父。子供を道具としか思っていない人。権力に翻弄された最たる結果が自分の人生であり、その上更にそんなシナリオまで用意されていたなんて遣り切れない思いで身体が震えた。
男として育て、氷室に見守らせるか。
女として育て、氷室に嫁がせるか。
「───っ」
自分が氷室と結婚するだなんて、考えたこともなかった。いつも冷たい仮面を付け、決して胸懐を晒さない男に従い、添い遂げる姿は想像すら出来ない。愛のある結婚、夢のある生活なんて意志を持つことすら許されない人生に望んではいないけれど、自分が知り得る限り最も苦手とする人物をパートナーとすることに抵抗を感じないわけがなかった。
男にされ、記憶をなくしたことが幸せだったのか。
女のまま、絶望する未来を掴むべきだったのか。
混乱のまにまに夜風が過ぎる。すべての熱を洗い流して───。
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#06に引き続き、「シナリオ」という言葉にも無駄に弱い私(笑)
まだBL要素が見えませんが、見捨てずお付き合いくださいまし〜。
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noir #08 に続く
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