noir #13
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何を愛と呼ぶのかなんて誰も決められないはずなのに。
思い掛けない事実に立夏はただ混乱していた。
これまでの平坦だった人生に突然意味を与えられたような、そんな感覚。自分の知らないところで自分の成長を確かに見守ってくれる人間がいたことに驚くと同時に、それが極身近な人物によって綴られたものであることに胸の奥がジンと熱くなるのを感じた。
「彼は、彼の精一杯で立夏さんのことを見守っているんです」
思い出を紐解くように目を細め、写真に目を落とす時丘の表情から、そこにどれだけの想いが詰まっているのか気付かされる。
「この愛情は、今も変わってはいませんよ」
「……え?」
「氷室はあなたのことだけを考えている」
それは今、この瞬間も。
そう付け加えた主は、改めて向き直り、そして静かな溜息を吐いた。
「僕を訪ねて来られたってことは、もう全部ご存知なんですよね」
「俺をまた女性に変えるかも知れないってこと……?」
「えぇ、そしてその確率は高いだろうということです」
包み隠さず話す時丘の目を黙って見返す。
「立夏さんが女性になるということは、彼が御園を背負うということです。社長は本当に彼を買っておられる。恐らくは次期社長となるでしょう」
「うん」
「そうなれば、必然的に妻を娶ることになる───当然、御園様の身近な方を」
「それって、つまり……」
俺?と問うた声は音になる前に消えた。黙して頷いた時丘は一息吐いて口を開く。
「彼は、立夏さん、あなたの人生のすべてに対して責任を負う覚悟を決めている男です。あなたが女性になり嫁ぐというのなら、彼はあなたを妻として迎えることも、御園を背負って立つことも、すべて全うするでしょう」
「氷室が……」
「彼が取り乱すところなんて想像出来ないでしょう? ……実際、僕も始めて見ました。あの男が罪悪感に苦しむ様など」
懐かしい横顔を思い出そうとするのだけれど、瞼に残る彼はいつも毅然としていて、そこに人間くさい葛藤など見えなかった。
「氷室は、自分が造った機会で二度もあなたの人生を変え、そして記憶を奪ってしまうことへの罪悪感で一杯になっているんです」
「そ、んな……」
すべて父親の意向だと反論しようとする立夏を主は優しく止めた。指示者が誰であれ、科学者としての責は拭えないのだと。
「彼は、たとえどんな罰を与えられても、あなたの記憶を守るならそれを乞うでしょう。何故ならあなたの記憶───つまり、氷室とあなたが過ごした時間は、彼にとって掛け替えのない宝物だからです」
「……あいつが、そんな風に思ってくれてたなんて……」
「それに比べたら、女性であるあなたを娶ることはそれほど大きなことじゃない。性別なんて関係ないんです」
真直ぐこちらを向いて時丘が告げる。
「あなたがあなたでありさえすれば、それが男でも女でも、氷室は愛しているってことですよ───」
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更新が1日空いてすみません〜。週末は旅先からのアップです。
にしても氷室はどんだけ立夏が好きなのか……書いてる方が照れますわ。
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noir #14 に続く
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