noir #14
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唐突な立ち位置に戸惑うのは足下を掬われるような気がするから。
一夜明け、些かのショックを引きずりながら立夏は自宅への道を辿る。
まだ自分の中で整理が付いていないと言う彼に対し、時丘は事態の収拾が付かなくならぬうちに戻れと勧めた。単独で家を出ることも初めてなら連絡も入れぬ外泊など許される家ではない。無論、今回の強引な梃子入れが立夏にとって必要だったことは理解していたが、今後のことを考えれば早めの帰宅はマストだった。
あなたがあなたでありさえすれば───
時丘の言葉を思い出し、立夏は軽く頭を振る。
同じ男であり、生まれた時から一緒にいる氷室。傍にいることがあまりに当たり前過ぎて、今更それを取り除けて考えることなど出来なかった。彼の前では飾らない代わり、恋愛対象に見ることもない……いや、それ以前に特別な感情を持つ相手だと認識すらしていないのだ。
「……何、考えてんだよ……」
分からない。彼が読めない。
これは成長を見守ってきた者に対する庇護欲か。それとも処女実験の被験者としての興味か。どちらにせよ胸の奥に蟠る苛立ちが拭われるはずもない。
「…………クソ」
舌打ちし、家の門を潜る。お手伝いの女性が慌ただしく駆け寄って来てはあれこれと世話を焼くのを邪険に扱いつつ、エントランスを抜け階段を登り駆けたその時───視線の先に見慣れた姿を見た。
「氷室…」
思わず足を止め、そして、そのまま続く声を失う。鉄面皮を貼り付けた彼の左頬に出来た真新しい傷に、立夏は目を見張った。心当たりはひとりしかなかった。
「まさか、オヤジにやられたのか……」
距離にして数メートル。互いのプライベートスペースを犯さないギリギリのラインで対峙するふたりは、だがこれまでの経験によってそれぞれの想いなど何もかも見透かしていた。
「御園の跡取りに何かあったらすべて私の責任です」
コツ、と靴音を響かせて一段ずつ階段を下りて来る執事に対し、立夏は微塵も動けないでいる。彼もまた、自分をそういう目でしか見ないことに言いようのない怒りを感じていた。
「……立夏様」
だが、次の瞬間。
思い掛けない強さで引き寄せられ、腕に抱き込まれたことで思考回路が停止する。
「心配で……気が狂いそうでした……っ」
肩口に寄せられた頬。背を掻き抱く逞しい腕。
吐き出された声は感情を押し込めるように震え、だからこそそれが初めて見せる彼の本音なのだと知った。
「無事に戻ってくださった、それが何よりです……」
噛み締めた奥歯がくぐもった音を立てる。
一度だけその背に手を添えると、立夏はゆっくりと口を開いた。
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さて、いよいよ氷室と立夏の対峙再開。
少しずつ想いが見え隠れしてるのが伝われば嬉しいな〜なんて。
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noir #15 に続く
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