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 2008年03月 

noir #15 

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 理由なんかいらない。ただ本当の自分を見て欲しかった。

「おまえが心配したのは器だろ」
 ふたりを切り裂く冷たい音。
 キッパリと言い切った目を覗き込み、氷室はそれが聞き間違いなどではない、彼の意志であることを突き付けられる。力なく垂れ下がる腕が空しく宙を掻いた。
「……立夏、様……」
「そうだよな。器さえあればいつでも入れ替えなんて出来るもんな」
 身体さえあれば性別や人格、記憶さえもいとも容易く。
「おまえは、御園の跡取りとしての俺、被験者としての俺を心配してるんだろ」
 だからこそこれだけ執着し、父親の心ない暴力にさえ甘んじて耐えたのだろうと。
「……勿論、それは否めません」
 目を伏せる仕草にどうしようもなく腹が立つ。何故かなんて上手く説明出来ないけれど、少なくとも彼が "仕事" としてしか自分を捕らえていない事実に居たたまれなささえ感じた。
「ハッ ご大層なこったな」
 何でもいい、嘘でもいいから否定して欲しかった。彼にだけは本当の自分を見て欲しかった。時丘の語る氷室のように、ただ真直ぐ、痛いほど強く、自分を求めて欲しかったのだ。

 けれど、それもまた、うたかたの夢。

 唇を噛んだまま俯く立夏に対し、執事は両肩に手を置くと、もう一度静かに口を開いた。
「器と言い切るなんて出来ません」
 右手が滑り、頬を掠める。ゆっくりと髪を梳く指先に不覚にも涙が込み上げる。
「跡取りとしてのあなたも、被験者としてのあなたも大切ですが……でも、それだけでは到底足りない。私にはそれでは充分ではないのです」
 促され見上げた先、漆黒の瞳が見据えていた。

「立夏様───あなたを、愛しています」

 ふるりと震えた眼差し、嘘など見あたらないからこそ尚、受け取るわけにはいかない想い。身が軋んでバラバラになりそうだと思った。
「氷室、それは違う」
 感情を押し込めて呟いた声は他人と思えるほど低い音。
「おまえのそれは忠誠心だよ」
「一体誰に対してです。これは執事としてでも、科学者としてでもありません」
「なら当ててやろうか。忠誠心じゃないのなら、それはただの庇護欲だ」
「違う!」
 腹の底から響く声。
 執事は悔しさで表情を歪め、すぐに失態に気付き目を反らす。その苦渋の横顔を見つめながら、立夏の心はますます本音から剥離していった。
「ずっと俺ばっか見てたからそんな気なんか起こすんだ」
 どうして、と呟いた唇は音を紡がないまま形を歪める。
「……あぁ、そうか。機械に入れちまえば記憶も残んねぇし、やりたい放題だよな」 
「立夏!」
「うるさい! これ以上俺を混乱させんな!」
 ダン、と拳で壁を打ち、打ち切るように踵を返す。
 駆け込んだ自室の窓、月明かりに照らされながら血が滲むほど唇を噛んだ。

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遂に告白のシーン。なのにこんなにも喧嘩腰なのは立ち位置のせい。
素直に受け入れるためにはもう一波乱必要なようです(^-^;)

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noir #16 に続く