noir #20
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パンドラを開けて。その悲しみは俺が引き受けるから。
抱き込まれた腕の中、嬉しさで胸が一杯になった。
「ひ、むろ……」
今更のように鳴る心臓。羞恥と歓喜でコントロールを失った感情が己の内で湧き上がる。行き場を求めてうねる熱が燻っていた火種を煽った。
チクショウ。なんで今更───。
気付いた時にはもう遅い。そして一度自覚してしまえば後戻りは出来なかった。だから腹を括るしかない。ここにすべてを置いていくことを。彼にすべてを預けることを。現実とは不釣り合いなほど冷静な自分がおかしかった。
「俺が女になったらさ、ちゃんと嫁にするんだぞ」
だから、こんなことがサラリと言える。
「今この決断も俺は覚えてないわけだし、おまえが上手く立ち回れよ」
「どうして……」
「それと、オヤジには適当に言って。俺が機械弄ってたら動いちまったって。だからおまえは関係ないって」
「どうして、あなたは……っ」
ひとり話を進める立夏に耐えられなくなった氷室は、その唇を重ねることで強引に続く言葉を奪った。怒りと、そして苦しいぐらいの喜びに胸が張り裂けそうだった。
「何故自分ひとりで背負おうとするんです。何故先にいってしまうんです」
責めるはずの言葉は、けれど相手の表情に飲み込まれる。
「……おまえがね、」
苦しそうに笑うから、と。
すっと目を細め、優しい優しい顔をして。
「俺だって伊達に長いこと一緒にいたわけじゃねぇよ。おまえが自分の気持ちに嘘吐いて、無理してんのなんてお見通しだ」
「立夏様……」
「苦しんでるのを見るのは嫌だ。でも、おまえを失うのはもっと嫌だ」
俺は我が儘なんだ、そう続ける相手に言葉もない。
「だってさ……おまえから言い出すわけにはいかないだろ、こんなシナリオ。だから最悪な結末になる前に、俺が動くしかないと思った」
「……立夏様……」
すべてを見透かしたように主が笑った。
「りつか、って呼んでみて。この前みたいに」
追い詰められた状況におよそ似つかわしくないリクエスト。焦燥感に煽られた氷室には理解が追い付かない。どうして。どうしてそんな風に笑うのか、そんな穏やかな表情で。
「なぁ氷室。呼んで、俺の名前」
「……りつか……」
「うん。ありがと」
不意に、トン、と突き放される。
「氷室、……大好き」
声を最後にハッチが閉められ、内側から鍵が掛けられる。その瞬間何が起きたのか分からなかった。
「立夏!?」
オートロック音に続き光が零れる。最悪の現実が目の前で進む。
「立夏!」
ドンドンと拳で叩き続けても、強固な壁は破られない。気持ちも温度も声さえも、もう "彼" には何ひとつ届けられない。
「待って、立夏! 行かないで!」
その右手がレバーを引いた瞬間。
「立夏───!!!」
最後に見たのは、笑顔だった。
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あわわわ(@_@) 自覚と同時にサヨナラです。
お付き合いいただいている方の胃を痛めるお話ですみません……。
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noir #21 に続く
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