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 2008年04月 

noir #25(完結) 

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 自分のすべてを差し出して、あなたのすべてをもらい受けよう。

 一夜明け、昨日の出来事が夢ではないと知ったのは身体の軋みを感じた時だった。
 言葉もなく、沸々と込み上げる怒りは羞恥のせい。感情の矛先は当然相方に向かったのだけれど、白手袋を嵌めた執事は悔しいぐらいいつも通りで、ひとり頬に朱を散らす自分がバカみたいだ。
「……少しは照れてみろっつーの」
 ブツブツと文句を並べながらもその実、彼が敢えて感情を抑えてくれていることに助かったりもしていた。
 昨日の騒ぎが父親の耳に入らないわけはなく、当然事の顛末を事後報告させられた氷室だったが、機械の誤作動による大破ということで押し切ったようだ。今後の事業展開さえ視野に入れた肝心の宝物が壊れたとあって、御園の逆上たるや甚だしいものがあったが、主がボルテージを上げるほど執事はクールダウンするように出来ている。至って涼しいものだった。
「ふふ…」
 並んで廊下を歩きながら、傍らの男が頬を緩ませる。それに向き直るでなく気配で察した立夏は、前を向いたまま眉を寄せた。
「……なんだよ、気持ち悪ィな」
「我ながら強引だったなと」
「オヤジか?」
「GSMをまた一から作る気はないと申しましたら大層ご立腹のご様子でしたので、それならその代わりに私が数字を出しましょうと提案しました」
「は…?」
 思い掛けない展開に立ち止まる。まじまじと見上げた先、眼鏡の奥の瞳がキラリと閃いた。
「もともとは水面下で関わらせていただいていましたので、それがようやく公表されるというだけです」
「待て、なぁ、それって……グループで働くって意味か」
 ここまできて一般社員というオチはあるまい。それならばまさか、幹部としてゆくゆくは御園の跡継ぎとして……?
 訝る立夏が見たものは、満面の笑みの肯定だった。
「すべては筋書き通りです」
「う、嘘吐くなよこの詐欺師っ」
「詐欺師とは失敬な。……まぁ、GSMの故障は計算外でしたが、どのみちこうなることは予想していました。最終的にはあなたと結ばれるところまで、ね」
 派手なウィンクが煙に巻く。
 あぁ、結局こうだ。こいつには敵わないのだ。それが惚れた弱みかどうかは分からないけれど、こんな結末もアリだろうと思える。
「……凄ェよな、結局男同士なのに」
「きっとご褒美ですよ」
 何の、と問う眼差しに、氷室は涼しい顔で「15年も待ち続けた私の忍耐に対してです」と答えた。
「おまえ光源氏? それとも変態!?」
「おやおや、今日は随分と失礼ですね。立派な大人になれませんよ」
「俺には背面教師がいるからな」
「……立夏様。いいんですか、そんなこと言って……」
 え?と呟く声は唇を掠め。
「ご馳走様でした」
 追随を許さぬ笑みで押し切ると、氷室は先に立って歩き出す。そうして数歩行っただろうか、再び立ち止まると今度は打って変わって落ち着いた声音でゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「……立夏様。あなたと出会えたことは、神様からのプレゼントだと思っています」
「氷室…?」
 振り返って、向き直って。天窓から差し込む柔らかな光がふたりのすべてを優しく包んだ。
「だから、ふたりで甘受しませんか」
 これ以上何かを差し出す必要なんてない。この手を離さなければそれでいい。
「……ハハ。やっぱ強引なヤツ」
 だからそっと手を伸ばして。強く引き寄せる腕に身を任せて。
「誓います。あなただけを愛すると」
「氷室」
「あなただけを幸せにすると」
「……そ、れって……プロポーズじゃん……」
 一気に熱くなった頬を持て余しながらも見上げた先、穏やかな笑みが迎えてくれるから。
「しょーがねぇな」
 付き合ってやるよ。ぶっきらぼうに返した言葉を待って、氷室が強く抱き締める。
「立夏様」
「氷室……」
 熱と歓喜と切なさと。
 砂糖菓子のようなくちづけがふたりの心を満たしていった。

end.
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はい、お付き合いいただきありがとうございました(^-^)
最初のピリピリした空気が最後はラブラブオーラになってますね。
これぞBLマジック!(単に私がワンパターンなだけとも……)
いかがだったでしょうか。少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです。
明日は総まとめの後書きアップですので、よければお立ち寄りくださいね。

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