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 2008年04月 

sign #03 

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 バイセクシャルの渉にとって ships は格好の居場所となった。
 いい酒、いい音楽。飾らない雰囲気、弁えたバーテン。男性からの執拗な眼差しも、女性からの無遠慮な誘いもない店。居心地のいい条件がそこには当たり前のように揃っていた。
「……凄いな」
 渉を驚かせたのは二度目の来店時。
 いらっしゃいませ、と声を掛けたコウは彼を認識するなり、にっこり笑って「こんばんは、吉岡さん」と付け加えたのだった。
「覚えていたんだね」
「勿論。素敵なお客様は見逃しません♪」
「ハハ、上手だなぁ」
 初回と同じ席を勧めてくれながら、美味しいライト・ラムが入ったのと瓶を掲げる。客の好みまで把握している敏腕振りにカメラマンは唸るしかなかった。
「じゃあ、コウさんのオススメを」
「リョーカイ。任せといて」
 軽いウィンクと共に手際よくカクテルが作られてゆく。鮮やかにシェーカーを振る動の動き、ゆっくりとグラスを満たす静の動き。それらを言葉もなく見守りながら、心がすっと落ち着いてゆくのを感じていた。
「どうぞ」
「……バカルディかな」
 言い当てるとカウンターの向こうでバーテンダーが嬉しそうに笑う。この仕事が好きなのだと充分伝わる表情だった。
「美味しい。久しぶりに飲んだよ」
「お口に合ってよかったー」
 大袈裟に胸を撫で下ろす仕草に思わず吹き出す。
「あらヤダ、これでも緊張しぃなのよ〜」
「充分落ち着いて見えるけどな」
「内心ドキドキしてるんだから」
 両手を頬に当て恥じらって見せる姿がおかしくて、悪いと思いつつ口元を抑える。ひどいわぁと漏らしながらも、コウもまた笑みを浮かべた。
「コウさんは、笑うと印象が随分変わるね」
「そうかしら? かわいくなる?」
「うーん、それはどうだろう……」
「んまっ この正直者っ」
 キーッとハンカチを噛む真似をしてみせるのを宥めつつ、渉は穏やかに目を細める。
「表情がね、柔らかくなるよ。何て言ったらいいんだろう……人を楽しくさせるのが上手だ」
 そう言って笑みを濃くした。つい先程まで覗いていたフレーム越しのように、その表情、その仕草のひとつひとつを切り取るように視界に納める。対するコウはにこにこと小首を傾げながら、人差し指を、ピ、と立てた。
「これはねぇ、楽しませたい人だけの限定サービスなの♪」
 薄茶の瞳に光が宿る。悪戯っ子のようにくるりと閃く光を受け、渉が笑った。
「それは光栄だな。僕もお礼に何かしなくちゃ」
 美味しいお酒も楽しませてもらったしと付け加えると、バーテンダーの唇が弓形を描く。だがそこから発されたのは思い掛けない提案だった。
「じゃあ、まず "コウ"って呼んでもらおっかな」
「コウ? 呼び捨てでいいのかい?」
「だって限定よ? それって VIP よ? さん付けじゃちょっとヨソヨソしいもの」
 ね、と笑うから、それでいいかと思えてしまう。
「でもこれはお礼だから、アタシも吉岡さんを名前で呼ぶの」
「……あぁ、言ってなかったね。渉です」
「渉……。颯爽としてる感じ、いい名前ね」
 改めて唇に乗せ、そして教えてくれてありがと、と告げた。
「じゃ、改めて、よろしくー!」
 促されるまま残り僅かのグラスを合わせる。
 喉を滑り落ちるレモンの酸味が心地よい夜を祝っていた。

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#02で微妙なミスしてましたが気付いた方います?
渉が最初にオーダーした、ホワイトラムのジンジャーエール割り
(ボストン・クーラー)なんですが、私の文章がおかしかったせいで
ジンジャーエールのホワイトラム割りみたいになってました。
どんだけ濃い酒飲んでんのという話……。こっそり修正(^-^;)

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sign #04 に続く