sign #06
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その夜、ships はほぼ満席だった。
いつになく熱気に包まれた店内の様子に、ドアを開けたカメラマンは一瞬引き返そうかと眉を寄せる。だが、店の奥から手招きする見慣れた顔にホッと息を吐き、人の間を縫うようにしてようやくカウンターに身を滑らせた。
「凄いな」
「ごめんねー。今山場なの」
渉が座るが早いか顔の前で両手を合わせ、拝むような素振りでコウが謝る。その傍らでは複数の客達が一致団結した様子でひとりの少年を囲んでいた。
「……山場?」
「超真剣な恋愛相談中。……アタシのこと、これから恋のカリスマ、もしくは愛の魔術師って呼んでいいわよん」
「うん!?」
自体に追い付けない常連を余所に、コウは目の前でカラカラと笑う。聞けばこうしたことはよくあることで、日常茶飯事的に恋の相談が持ち込まれるという。
「ウチは恋の駆け込み寺なの。……ふふ、素敵でしょ?」
「それは君がいるからだね」
「……と、いうわけで渉、今夜はごめんっ」
ガバッと頭を下げるのを両手で制し、カメラマンは苦笑する。クールな見掛けに似合わず情に厚いギャップが好ましかった。
「いいよいいよ、聞いてあげなさい。そういうのがコウの性に合ってるのは分かってるから」
思わず、うる、と目元を潤ませた矢先、バーテンを呼ぶ声が届く。
「ホラ、行ってあげなさい。しばらくは僕もここにいるから」
「うん、ありがと。ゆっくりしてってね」
そうして送り出して。オーナーに注文を通して。
本当はもう少し長く引き留めたかったと言ったら、彼は笑うだろうか。
参ったな、と苦笑しながら差し出されたカクテルグラスを手に取る。士官を意味する "クォーター・デック" を一口含むと、立ち上るシェリーの芳香に胸が疼いた。
カウンターの最奥。
そこに片肘を突き、数メートル先の遣り取りを見守る。
中央の少年は見るからに必死な様子で、それを宥め賺す周囲も気が気ではないようだ。余程好きな相手なのだろう、時折唇を噛む仕草に端で見ている渉でさえ応援してやりたくなる。無論人一倍お人好しのコウにとってはとっくの昔に仕事そっちのけで力説に次ぐ力説を披露していた。
「……らしいなぁ」
ここ数週間で覚えた彼の表情、彼の仕草。そして彼の性格。困っている者を放っておけない優しさと、なかなか言い出せないでいる本音を聞き出すためのハイテンション。それは一見客を楽しませるだけのツールのようでいて、その実相手の懐にするりと入り、間合いを詰めるための有効手段であることをカメラマンは見抜いていた。
だからこそ気付く、僅かな違和感。
明るい声が上滑りして聞こえると思った瞬間、渉は気付いた。
その底にあるものに───。
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おおお、なんか急にミステリーみたいになってますけど(^-^;)
とりあえずここに至るまで6話も消費したことが一番の驚きですよ……。
<カクテルメモ>
"クォーター・デック" はカクテルにしては珍しいラム+シェリー。
ちょっと違った側面を見せ始めた回なので敢えてチョイスしてみました。
レシピはホワイト・ラム、ドライ・シェリー、ライム・ジュースのステア。
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sign #07 に続く
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