noir #07
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渉の直感は核心を突いていた。
そのことに気付いたのはそれから数日後、再び店を訪れた時。普段以上に饒舌なコウを前に、逆に神経が研ぎ澄まされた。
カメラマンの目はシビアだ。
表も裏も光も影も、常に見分け、切り取らなければならない。だからこそ物事の表層だけではない、奥にまで手を伸ばし、目を懲らし、耳を澄ませて探り撮る。渉はそんな能力に人一倍長けていた。
「もー、やだぁ。ホントにー?」
席ふたつ隣の客の話に大袈裟にリアクションを返す彼。その反応に気をよくした男達は身を乗り出して言葉を続け、場が盛り上がる。酒は進み、酔いは回り、笑いの渦のその中央で皆に笑いを提供するバーテンの横顔を見た時───渉は確信したのだ、己の違和感は正しかったのだと。
君は無理して笑ってるんだね。
その声もその表情も、明るく朗らかでとても楽しそうだ。この場にいる誰もが彼の異変に気付かないだろう。……いや、その言葉は少し違うかも知れない。何故ならそれは今初めてのことではなく、これまでずっと……そう、恐らくは初めから、コウは身に付け、そして頑丈にプロテクトしていたものだろうから。
初めはただの思い過ごしだと思っていた。
けれど彼が人々を笑わせるために自らを道化にすればするほど、初めに触れた彼の本質と少しずつ乖離し、今ハッキリとその溝が見えている。戯けるほどに積み上がる海底の砂、喘ぐ魚のように、上手く息を吐けていない部分があることが無性にもどかしかった。
小さく溜息を吐き、手元のグラスを煽る。温くなったオレンジピールが長い余韻を残して消えた。
「……一杯、ご馳走させてもらえませんか」
聞き慣れた声、顔を上げると見慣れた相手が畏まって立っている。先程の客はと視線を流すと、答えを先回りしたコウが「もう帰ったよ」と告げた。
「また渉待たせちゃったから、そのお詫びに何か奢らせて?」
「あぁ……そんなの気にしなくていいんだよ」
「いいのいいの、アタシも一緒に飲むから」
「ハハ、何だそれ」
軽いウィンクを受け止めながら苦笑する。そして同時に思った、せめて自分との遣り取りでは無理せず、飾らずにいて欲しいと。あるがままの笑顔で向き合って欲しいと。
「ね、何がいい?」
「お任せ」
「もー、いつもそればっかりじゃない」
「コウが作るのは何でも美味しいんだよ」
「……まったく。調子いいんだから」
口説くのは飲んでからにしてよね、とシナを作ってみせるのに今度こそ声を上げて笑いつつ、オールドファッションドグラスにクラッシュアイスを詰め込む手元、その細い指先に、訳もなく胸が焦がれた。
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昔は時間を掛けて書く方がいいと思ってたんですが、最近は仕事の都合で
家に帰るのが毎日 23時近いので、そこから1時間で書いてアップするという
緊張感がある方がいろいろ引き締まるような気がします。
ちなみに今日は休日なので……(強制終了)
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sign #08 に続く
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