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 2008年04月 

sign #15 

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 天高く、馬肥ゆる秋。
 空は清々しく晴れ渡り、風もなく穏やかな日和で迎えた今日。
「いやーん、久しぶりー!」
 丸ノ内線を下りて正面、後楽園遊園地に着くなり、コウは両手を挙げて喜びを表現する。すべてを語るまでもなく、どれだけ楽しみにしていたのかはその横顔から充分伺い知れた。
「あんまりはしゃぎ過ぎないようにね……って、聞いてるかい」
「んもー。カタイこと言わないの♪」
 いそいそとフリーパスを買いに小走りするコウを見ながら、渉はそっと苦笑を浮かべる。まるで子供のような表情は彼が店では見せない、とっておきのものだと思った。パンフレットを携え戻った彼は既にテンションがマックスレベルに近いらしく、目を輝かせながら首を傾げる。
「渉、何乗る何乗る?」
「先に言っておくけど、僕は絶叫系はダメだからね」
「え〜〜。楽しいわよぉ」
「それからお化け屋敷とか、水に飛び込むのとか……」
「ま、取りあえず片っ端からいってみよっか!」
「コウ、話を聞いて!」
「レッツゴー♪」
「コウー!」
 ───斯くして。
 気の毒なカメラマンは有無を言わさず連れ回される羽目になり、下で待っているから乗っておいでとの遠回しな断りなど一度として聞き入れてもらえることなく、結局仲良く隣のシートに収まって空中を行ったり来たりさせられたのだった。
 無論、「たまには思いっきり遊びたい!」と豪語したコウがそれだけで満足するはずもなく、後楽園名物、傾斜80度とも謳われる絶叫マシーンLAQUAへの搭乗が告げられる。
「本気かい?」
「コレ乗らないなんて人生の楽しみが半減するわよ〜。だからまずは1回目ね」
「1回目!!!?」
「ふふ。乞うご期待〜〜」
 意味深な笑みに流されるままいつの間にか席に押し込まれる。どうもコウの押しには弱いんだよな、なんて今このタイミングで気付きたくない事実だった。
 少しずつ地上から引き上げるベルトのカタカタという音に否応なしに恐怖感を煽られつつ、生きた心地がしない者、好奇心を掻き立てられる者。まるで死刑執行じゃないかと愚痴のひとつも零そうとした瞬間、忽ち世界は反転し、ふわりとした浮遊感に襲われた。
「……う、わ……っ」
「キャー!」
 そこからはもう、あっという間。
 轟音を轟かせ急降下、急上昇。ビルの隙間を擦り抜け、大きく左にカーブして。ぶつかる、と思った瞬間鮮やかに空を切って進むゴンドラに傍らで歓声が上がるのを聞きながら、渉はすっかり魂を放り出していた。
 死にそうだ、じゃなくて、たぶん1回は死んだな……。
 己の独白に妙に納得しつつ、フラフラとベンチに腰を下ろす。差し出された冷たい緑茶を受け取り、一気に半分煽ったところで、渉はようやく呼吸をついた。
「ごめん、無理させちゃった」
「あぁ……いや、慣れていないんだ」
 でも次はないぞ、慌てて付け加えるのに苦笑を浮かべて。
「じゃあ、少し休んだら、次は渉の乗りたいのにしよっか」
「そうしてくれると助かる」
 互いに向き合って笑みを浮かべて。
「ちょっとちょうだい」
 飲み掛けのペットボトルにそのまま口を付けるのを何気なく見遣り、ふと、先程まで自分が触れていたのだと思い至った。
「……あれ? 渉、顔が赤い」
「き、気のせいだよ」
 誤魔化すように勢いよく立ち上がり、クラリと来る身体を渾身の力で支える。
「じゃあ、休憩も兼ねて観覧車にしようか」
「……え?」
「コウ、今日何度か見上げてただろう。気になるんじゃないかと思って」
「……えぇ、と……」
 この時。
 彼が言葉を濁した意味に気付いていたら、或いはこの先の関係は変わっていたかも知れない。だが、それを遠慮と取った渉は穏やかな笑みを浮かべたまま提案を続けた。
「乗りたいんだろう?」
「う、うぅん。そんなこと……」
 ふるふると首を振る仕草がいつも以上に彼を幼く見せる。それが遊園地の非日常空間にとけ込んで、ついサインを見逃した。
「僕も乗りたいんだ。一緒に来てくれるかい」
 目を上げたコウは一瞬迷うような色を湛え、すぐにそれを掻き消す。コクンと頷いたのを見届け、渉は先に立って歩き始めた。
 秋の日の午後、迫る黄昏。
 傾き始めた夕日がふたりの運命を染め上げてゆく。

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さて、ここからが勝負所。夕暮れの観覧車でございます(笑)
そういえば昨日は「web拍手」もいつも以上にありがとうございました(^-^)

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sign #16 に続く