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 2008年04月 

sign #19 

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 暗闇の中、カメラマンが呆然と己に向き合う頃───カウンターの奥でバーテンダーが残り香を抱いていた。
「……渉が?」
「あぁ、俺に渡してもう帰ったがな」
 慌てて店のドアに目を遣る相方を見ながら、オーナーはヤレヤレと溜息を吐く。
「おまえに気を遣ってくれたみたいだぞ」
「そん、な……」
 会いたかった。
 開き掛けた唇が動きを止めても、梶原には全部分かる。花束を抱えたまま俯くコウの頭に掌を乗せ、思い切り左右に掻き回した。
「わっ ちょ、何すんのカジー!」
「ハハ。やり過ぎたか、凄い頭になったな」
 裏で直して来い、目で促してくれた策に感謝だ。
「……ありがと」
「礼なら後でキッチリ聞いてやる」
 薔薇を抱えたままバックヤードに駆け込んだコウは、電気を点ける間も惜しんでポケットから携帯電話を取り出す。無遠慮な液晶の明かりに目を細めながら、もう何度も見慣れた番号を鳴らした。
 ひとつ、ふたつ、呼び出し音を数えながら祈るように拳を握る。
「……出て、お願い……」
 もうダメかと思ったその時、留守電に切り替わるギリギリのタイミングで通話開始音に切り替わった。
「……もしもし、コウ?」
 ややくぐもった声。電話の向こうは外の気配。
「うん。……さっき、来てくれたんだね。お花ありがとう」
「イキナリ押し付けてすまなかったな」
「そんなことないよ……」
 腕の中の薔薇を見下ろし、思わずそっと頬を寄せる。鼻孔を擽る芳香が彼の香水を思わせた。
「声掛けてくれたらよかったのに」
「いや、邪魔になるかと思ってね……」
 電話の声はいつもと違う。そんなことが、今この瞬間に痛感する。
 もう少しだけタイミングがよければ、自分が彼を見付けていれば、或いは直接顔を見ることも出来たかも知れないのに。それがついさっきの擦れ違いなのだと思うたび、掌が竦み、汗が滲み、焦燥感に煽られた。

 会いたい───。

 気持ちがハッキリとした言葉を持つ。逸る心に脈さえ遅れる。
「今どこ? 外にいる?」
「あぁ。だが悪いがもう一度は行けそうにない。……遠いんだ」
 けれど。
 その言葉に嘘が混じったのを、コウは耳敏く見付けてしまった。商売柄身についてしまう長所というのは諸刃の刃、こんな時に嗅覚が鋭いことを呪うしかない。

 会いたいと思うのは自分だけなのかも知れない。

「……そっか、残念」
 だから何気なさを装って返せば、向こう側の空気が和んだ。
 残酷な人。
「誕生日、おめでとう……」
 そして最後にそんな言葉で電話を切る優しい人。

 切なさに胸が痛んだ。

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なんでこのふたりこんな不器用なのかしらと自問自答(>_<)
微妙な誤解をし合っているこのふたり、さて、どうなりますことか……。

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sign #20 に続く