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 2008年05月 

seasons #16 

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 つくづくいい後輩を持ったモンだ───

 電話口でキャンキャン色めき立つ巧矢の報告を聞きながら、一条は深々と溜息を吐いた。
「もうおまえは電話してこなくていいから」
「そんなこと言わずに聞いてくださいよー」
 冗談じゃない。こっちの身にもなりやがれ。そんな悪態を吐いてみたところでお花畑の住人に届くわけがない。
「俺ね、今日ね、安曇さんをお姫様だっこで持ち上げちゃいました!」
「ゲッ」
「もー、相変わらず何食っても細いんスよあの人ー。腰とかもう、同じ男とは思えませんっ」
「俺もおまえと同じ男だとは思われたくねーよ」
「ふふふ……より密着してしまいましたよ……」
「頼むからその思考から離れろ」
「無理ッス! 俺の脳の90%は安曇さんで占められてるんでス!」
 それはもう細胞レベルにまで達しているのです! 配達万歳!
 沸騰を越えた脳には何を言っても聞こえないものだと遠い目をしつつ、残りの話も適当に受け流し、ようやく電話を切ったのは悪夢開始から10分後。
「さすが師弟コンビ、担当変わっても仲いいねー」
 燃え尽きて真っ白になる一条に向かい、労うように声を掛けたのは同僚の谷野。昔から仲のいいこのふたりは、一条が転勤になった後もこうして時間を見付けては酒の席を囲む間柄だった。にこにこと穏やかな笑みを絶やさないおまえがかつてないほど癒し系に見える、と心の中で泣きを入れつつ、一条は携帯を閉じると大きな溜息と共に向き直った。
「仲がいいっていうかな……これは単なるノロケ報告だ」
「ノロケ? なんだ、たくちゃんやっぱ恋人いるんじゃん」
「いやー、あれはなー、恋っていうより妄想だろ」
 だって相手、男だし。
 包み隠さず決定打を放ると、さすがの谷野も一瞬の間を空けたがさすがそこは懐の広い男、すぐに体勢を立て直してみせる。
「うわ、そうきたかー。でも芸能界とか多いって言うよね」
「ガチでもねーくせに熱上げちゃってなぁ。結果が分かるだけに見てて辛いよなー」
「やっぱ後輩はカワイイですかね」
「そりゃそーだろ。それにあいつ、基本的にはいいヤツだし」
「好青年、前途多難な恋か。いやー、俺詰め所行くの楽しみになってきたわー」
 キラリと閃く瞳に嫌な予感。
「谷野ちゃん頼むよー? あいつ浮かれてたら止めてやってなー?」
「任しとき。ぶん殴ってでも止めてやる」
「さっすが、分かってるねー」
「でもその後で煽りまくって楽しむけどねー」
 人生飴と鞭ってヤツ?と悪魔の笑みを浮かべるのに、一条は心からの叫びを上げる。
「やめろ! 俺は電話で叩き起こされる生活から抜け出したい!」
 そんな相棒をカラカラ笑って見守る谷野、只者ではない。
 そして結局可哀想なのは一条だけという話。

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意外と脇役を書くのが楽しい今連載。正確に言えば貧乏くじを引くタイプ?
一条さんって絶対いい人だと思うんだ、運が悪いだけで(笑)

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seasons #17 に続く

seasons #15 

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 大騒ぎしながら片付けを終えたふたりは、遅い夕食を取るべく街へと足を向けていた。
 並んで歩きながら、安曇は改めて傍らの青年を振り仰ぐ。自分より10cmは高いだろう長身は長閑に鼻歌など歌いながら実に平和そうだ。それに引き替え───つい今し方の痴態を思い出し、ひとり舌打ちする。
 何が嬉しゅうて男にお姫様だっこされなあかんねん。
 思い出すだに恥ずかしくて顔から火が出そうになる。その上あんなに軽々と持ち上げられては、男としてのプライドにだって関わるのだ。まぁ、重けりゃえぇってモンでもないけど、と心の中の独り言ながらツッコミを入れつつ、考えを揉み消すように頭を振る。
「安曇さん……?」
 不思議そうに見下ろす相手に表情を取り繕うこともせず、安曇は唇を引き結んだ。
「巧矢、何食いたい? 手伝ってもろたし、奢るわ」
「マジすか!? うわ、嬉しいな〜」
 ホントは安曇さんの手料理が食べたいんですけど、などという煩悩から漏れ出したとしか思えない続きは取り敢えず聞かなかったことにして。
「あんま高いんはあかんで。払える店にしといてや」
「やだなー、そんなトコ俺の方が入りたくないッスよ」
 へへ、と笑ってみせる、その仕草に何かモヤモヤしていた気も解れてゆく。やっぱこいつといると楽なんだな、と思い至り、安曇は笑みを返した。それが滅多にないことなど自覚するまでもなく。
「それにしても、この時間って飲み屋ばっかッスね」
「え? あー、そうかもな。いうてもファーストフードは行きたないし……」
 どうしたものかと思い倦ねていたふたりが立ち止まったのは松屋の前。
「……ここでえぇ?」
「えーと、ジャンクフードよりは幾分マトモですけど、安曇さんこそいいんスか?」
 だよなぁ、とお互い頷きつつ、だが明確な打開策が見つからないまま思案に暮れる。
「俺は居酒屋でもいいんスけど……。あ、そか。飲むとなんだかんだで高くなっちゃうもんね」
「アホ。学生は大人しく奢られとけ」
「なら居酒屋行きましょうよー。俺、安曇さんと飲みに行きたいー」
「また今度な」
「なんでッスか。お酒嫌い?」
「いや……」
 ひょい、と下から覗き込まれ、思わず強引に顔を逸らす。酔うと笑い上戸になるだなんて言えない。ましてや目の前でそんな痴態など晒せるわけがない。
「ま、まぁ、今日は松屋で勘弁しといて」
「はーい。じゃあまた今度」
「今度な」
「はい、今度」
 妙に力が入った念押しだったのはこの際忘れることにして。
 実に色気のない店内に男ふたり、並んでカツカツと丼物を掻き込みながら、ふと我に返ると不思議な絵面だなと思う。ついこの間までは見ず知らずの仲、単に仕事を通して関わりがあっただけなのに、こんな風に休みの日に一緒に夕飯を食べるなんて想像もしていなかった。
 人付き合いが得意ではない自分が、こいつの前では不思議と自然体でいられる。緊張するでもなく、気負うでもなく、ありのままの自分でいられる。そんな相手がいることがこそばゆくて器で顔を隠すようにして安曇はそっと笑った。
「……あ、おまえ付いてんで」
 まるでお約束のように頬に米粒を付けているのを取ってやりながら、本当に犬みたいだなと苦笑。
「やーん。安曇さんたらー」
「なんやねん。クネんな」
「へへ。ありがとございます」
 穏やかな休日が終わろうとしていた。

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初デートで松屋ってもう、どんだけ色気ないのこの人達ー!(笑)
そのうち笑い上戸の安曇ちゃんも登場させたいなと目論んでおりますよー。

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seasons #16 に続く

seasons #14 

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 それから暫く脇目も振らずに重い荷物と格闘していた巧矢だが、ふと顔を上げた先、真剣な表情の横顔が目に入った。
 ふたりで等分しても大掃除レベルの片付け。その大半が重量のある荷物の移動である。普段から運送業を生業としている自分ならともかく、安曇には些か荷が重い。それでも泣き言ひとつ言わず黙々と作業を続けているのは自分が頼んだ手前か、それとも意地か。
 恐らく、後半なんだろうな……。
 短い付き合いながら安曇が巧矢を理解するように、巧矢もまた安曇を分かり掛けていた。
 他人にも厳しいが、それ以上に自分に厳しくあろうとする人。その直向きさは彼の魅力であり、危うさであり、全部引っくるめていいところなのだけれど───こんな時はもっと素直に自分に頼って欲しいと思ってしまう。
 元々線が細いくせに、やれば出来るとばかり過剰な力仕事をしようとするものだから、要所要所で足下がフラ付いている。それを悟られまいと歯を食い縛って続投しようとするのを見て、巧矢は思わず腕を伸ばした。
「わ、」
「……危なかった」
 頭上の棚に上げようとしていた荷物がもう少しで横滑りするところだった。後ろから奪うようにそれを押し遣り、改めて向き直ると、横槍を入れられたのが気に食わないのか安曇はプイ、と視線を反らす。
「俺はえぇから……そっち頼む」
「終わりましたよ。ついでにこれも上げちゃいますから」
「えぇって。俺やるから」
「……安曇さん、無理してる」
 つい、零れた本音。
 隠していた胸懐を言い当てられたせいで一瞬表情を歪めた安曇は、半ば自棄気味に荷物に手を伸ばし、
「うわっ!」
 無理な体勢からバランスを崩し、壁に手を突いて身体を支えたものの慣性の法則にまでは逆らえず。あろうことか折り畳んであった段ボール箱の束をブチ撒けるという派手なパフォーマンスを演じて見せた。
「あー……最悪。ごめんな、折角やっといてくれたのに……」
「いえ、俺の言い方が悪かったから……」
 ゆるゆると視線を合わせ、顔を見合わせ。その途端どちらからともなく苦笑が漏れる。先程のピリピリとした空気は既になく、可笑しいのと照れくさいのとで眉を下げるしかなかった。
「俺ね、こーいうの得意なんスよ」
 雰囲気を読み、先に口を開いたのは巧矢だった。
「友達の引っ越し手伝った時にそのまま今のバイトにスカウトされちゃったぐらい。……なんだろ、荷物の片付けとか、引っ越しとか、『遣り遂げたー!』って感じするじゃないスか。あれがね、凄い好き」
 無性にスカッとしますよね!と笑うのにつられ、安曇もまた穏やかな表情になってゆく。
「……て、俺ばっかベラベラ喋ってすいません」
「いや、えぇよ」
 今更やん、と返せば唇を突き出す仕草が返る。
「おまえの話、もっと聞きたい」
「……安曇さん?」
「おまえおもろいもん」
「そ、そうスか?」
 なんだこれ。なんだこの人。なんでこんなにストレート!?
 まさに直球勝負で来た相手に対し、そんなこと想定の範囲外とばかり急にドキドキし始めた巧矢はあっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロで落ち着かない。右往左往する視線の端、だが目に入った段ボールの海を認識するや否や、現実に戻った脳は急にその働きを再開した。
「取りあえず、先にココ片付けちゃいましょっか」
 そう言うなり手を伸ばしたかと思うと、巧矢は安曇をお姫様だっこで抱え上げる。
「な、なにしてん!」
「だって安曇さんフラフラじゃないスか。……ダーメ、隠しても俺には分かるんです。だから安全なトコまで運ばせてください」
 それに暴れる方が危ないんですからね。
 問答無用で釘を刺してくる輩相手に安曇はどうにでもなれと白旗を。
「……恥ずかしいヤツ」
 これが世に言う密室事件。

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ワンコ、我を忘れると超積極的です。飼い主にも制御不能。おすわり!
いやぁ…年下攻めの醍醐味を書きながら肌で実感中ですわ。萌える〜〜(笑)

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seasons #15 に続く