seasons #03
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巧矢が運命的な出会いを一方的に果たした数日後、事態は予期せぬ方向に展開していた。
「悪ィ、俺、転勤になったわ」
「……は!?」
顔を見るなり開口一番。
これまでなんだかんだの腐れ縁で長年コンビを組んでいた一条が、またいつもの口調で言うものだから、ついうっかり冗談なのかと思ったのに。
「ウチ、嫁さんが主導権握ってんだよね」
という、実にあっさりとした理由でそれが決定事項であることを告げられる。
聞けばバリバリのキャリアウーマンを妻に持つ彼に拒否権はないらしく、パートナーの栄転に伴う異動に付いていくらしい。
「コンビ解消スか! うう、俺というものがありながら〜」
「おまえがそれ言うと洒落になんないから」
「一条さん抜けて、俺ひとりじゃ東エリア見切れないスよ〜」
「まーまー、おまえなら上手くやってけるって」
泣きつこうにも暖簾に腕押し。あぁこれがこの人の真骨頂だったよと今頃思っても後の祭。後輩が遠い目をし始めた頃、我関せずな一条は呑気な声で「それよりさ」と続けた。
「俺はあそこが心配なんだよな。あの新しい花屋」
「あー……綺麗でしたよねぇ」
思わず足下に擦り寄ってしまうところだった。いい匂いがするんだろうなぁなんて、紙一重な思考回路がフル稼働する様子を隣で伺っていた一条は、眉間に皺を寄せつつ首を振る。
「おまえにそっちのケがあるとは知らなかったけどよ」
「おおお俺は別に! そーいうのとは! ていうか! 実際問題あの人神々し過ぎて俺のような人間には近寄れないっていうか……!」
「……いや、仕事だからな? 普通に話せ?」
だがそんな忠告など瞬殺される。
「そ、そうスかね。いいですかね。俺、これをキッカケにあの人とお近付きになったりとかしてもいいんですよね? ね、一条さん!!!!?」
「おまえ目が恐ぇよ……」
「うわ、これ凄い偶然! いいや必然! 神様ありがとう!!」
「ちょっと落ち着け」
「あの人と話せるチャンスに感謝感激雨霰! そうと決まったら今すぐにでも……っ」
まるで弾丸のように飛び出そうとする襟元をむんずと掴む。恐らく付き合いの長い一条だったからこそ出来た瞬発力の賜であった。
「今日は配送の日じゃねーよ」
「なんで出鼻を挫くかな!?」
「トーゼンのことをしたまでだ」
「さてはそれは嫉妬っスねっ!?」
「おまえと一緒にすんじゃねーっ」
何が悲しくてこのクソ忙しい時に頭の中がお花畑の相手をしなければならないのか。一条の溜息は積み重なるばかりである。
「あー、俺、おまえ置いてくのマジ心配……」
「任しといてくださいよ! 大丈夫ッスから!」
ドーンと、と胸を広げてみせるのが余計不安を掻き立てる。
「それが心配なんだって……」
シクシクと痛み始めた胃の辺りを抑えつつ、いっそ花畑の向こうの三途の川でも渡っちまえなどと物騒なセリフを呟きつつ、一条は別の意味で遠い目をする。
積年の勘は外れない。
波乱が起きぬはずがないのだ。
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やー、ラブコメってやっぱ書いてて面白いですね。シリアスとは別に楽しい。
巧矢が頭弱めになってきましたが、いつか払拭する日を夢見て……(無理)
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seasons #04 に続く
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