Monthly archives

 2008年05月 

seasons #11 

←前話へ

 トントン拍子で愛しの君と約束を取り付け、意気揚々と詰め所に戻った巧矢を出迎えたのは、うっかり帰るタイミングを逃した不幸な一条であった。
「一条さん! 一条さん、ニュース!」
「うわ、その顔ヤベェ。マジ勘弁」
 危険を察知し咄嗟に後退ったものの、悲しいかな、既に射程圏内にロックオンである。
「なんつーこと言うんスかあんたは……。いや、そんなことより聞いてくださいよ、ねぇ、ちょっと」
「聞かない! 聞きたくない断じて!」
 両手で耳を塞ぎ、頑なに首を振る先輩に対し、目の前が薔薇色で溢れている後輩に理性という文字はない。ジリジリと壁際に追い詰められる様は端から見れば痴話喧嘩以外の何物でもなく、廊下を通り掛かった別エリア担当が「見てはいけないものを目撃してしまった」といわんばかりの表情でそそくさと立ち去るのに一条は届かぬ手を伸ばすしかない。
「俺まで変態の仲間に入れんなよっ」
「俺だって変態じゃないッスっ」
「あんだと、コラ」
「…………あ、お邪魔しました……」
「あー! ちょっとバイト君! 戻って来て!」
 入れ替わりの時間帯、まるで昭和のコントである。次から次へと誤解を広げてはなるまいと、仕方なしに一条は腹を括った。
「……分かった。聞いてやるから、手短に話せよ?」
「ハイッ」
 にっこり笑うと色黒の肌に真っ白な前歯が映える。普通にしてりゃそこそこの見てくれなのによ、と心の中で悪態を吐きつつ、優しい先輩は態度で先を促す。
「へへ。実は俺、今度安曇さんの店を手伝いに行くことになりました!」
「安曇さん? て……えーと、花屋の?」
 確か随分前にもらった名刺にそんな名前があったような。
「はい。……あ、名前で呼んでいいのは俺だけなんですけど、一条さんは特別です」
「あんま嬉しかねぇけどよ……」
 本人に許可されても微妙だが、目の色が変わった後輩に言われるのはもっと微妙だ。
「俺の携帯番号伝えて来たんで、そのうち連絡もらえるんですよー」
「へー。そいつはよかったな。で、連絡なかったら? おまえから掛けんの?」
「いえ、俺安曇さんの番号は知らな……」
 途端、ハッとしたままフリーズする。「番号教えるって言ったら普通は交換だろ?」と追い打ちを掛ける一条相手に忽ち目を潤ませるあたり、仕草がいちいち犬っぽい。
「あー! 聞けばよかった! 超自然な流れだったのに! 大チャンスだったのに! バカバカ……俺のバカ!」
「まーいいじゃん。手伝ったご褒美に教えてもらえば」
 あまりの落ち込みように、思わず助け船を出したが最後。
「ご褒美! その響きが萌えますね!!!」
「男同士で萌えとか言ってる時点で終わってるよ……」
 拳を握って身悶える様に、いっそ船ごと沈んじまえと舌打ちしても後の祭。真っ当な道を歩けと今更諭したところで当然聞く耳など持ち合わせてはいないのだ。
 これからも続くであろうこの "報告会" にトホホと肩を落としつつ、それでも当日の目的が倉庫の片付けという割合マトモな内容だったため、ホッとしたのも束の間。
「ところで今日、あの人にキスするところでした」
 傍らでブハッとお茶を吹いたことなど眼中になく。
「もうちょっとで口と口がくっつくところだったのに……」
 物凄い勢いで噎せ込む声さえ聞こえないらしい。
「思い切ってそのままいったら世界が変わったかも知れないのに……俺ってバカですよね……」
「巧矢! 頼む! 目を覚ませ!」
「抱き込んだ時のあの線の細さ……同じ男ながらムラムラきました」
「だ、抱き込んだ!?」
「肩とか超細いんスよ。髪もなんかいい匂いがするし」
「おまえ何した? 何したんだ!?」
「いやー、今日はいい日でした……」
「巧矢ー!」
 結局、終始高波に浚われては海底に突き落とされるという非情としか思えないジェットコースターに翻弄され、一条の1日は幕を閉じる。
 可哀想なコンサルタントに幸あれ。

----------
だんだん一条さんが気の毒なことに……不幸の上に成り立つ幸せね(遠い目)
というわけで、この際とことんやってみようかと思います(笑)

お気に召しましたら「BL小説」バナーをクリックしていただけると嬉しいです♪↓

seasons #12 に続く