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 2008年05月 

seasons #12 

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 時計の針が21時を過ぎる頃。
 普通の花屋にしては遅い店仕舞いを終わらせ、安曇は軋む身体でノビをした。
 往来には忙しなく行き過ぎる人々。
 新宿駅東口の程近くという立地条件のせいで夜になっても客足は絶えず、出来ることなら深夜まで営業時間を延ばしたいところだがいかんせん、ひとりで店を切り盛りするだけに身体への負担も相当なもの。別に歳いう訳やあれへんけど、と自らに言い聞かせるようにひとりごち、パチリと最後の電気を消した。
 裏口に鍵を掛け、歩き出すと忽ち辺りは煌びやかなネオンの渦。
 眠らない街とはよく言ったもので、昼間とは入れ替わりにやって来る人の群れでスクランブルはいつもごった返している。人混みを避けるように細い路地を選んで歩きながらふと、昼間の約束を思い出した。
「……あ、電話したらな」
 明後日は定休日、片付けるならそこしかない。
 ズボンの後ろポケットに突っ込んだままの携帯を取り出し、メモを片手にボタンを押す。普段あまり人と電話をすることのない安曇にとって、それすら些かの緊張感を伴ったのだけれど。
「も、もも、もしもしっ」
 僅かワンコール。
 電話の前で待ち構えていたとしか思えないほどマッハのスピードで飛び付いた相手に圧倒され、一瞬声を失い掛けた安曇はそのテンションの高さに眉を寄せ、どこかの先輩を彷彿とさせる苦笑を浮かべて似せた。
「……威勢えぇなァ。耳鳴りするやん」
 フッと笑えば気配で察したか、電話越しでさえ表情が緩むのが分かる。
「すんません。……へへ。安曇さんから電話来たと思ったら、嬉しくて」
「……おぉ」
 この場合、何と返せばいいのか他人と深く関わらない自分にはよく分からない。安曇は一層眉間に皺を寄せつつ、持ち上がる頬を抑えられないまま、誤魔化すように言葉を続けた。
「昼間言ってた片付けの件やけど、明後日とかどない?」
「行きます行きますっ 行かせていただきまスっ」
「仕事、大丈夫?」
「その日は超ラッキーなことにシフト入ってないんスよー」
「そうなんや」
 ───だが。落ち着きを取り戻したかに見えた心臓は、またも跳ね上がることになる。
「あ、でもちょっと学校には顔出しますけど……」
「学校? おまえ学生!?」
 昼夜を問わず配達に来るから、てっきり社員なのかと思っていた。
「言ってませんでしたっけ。大学3回生ッス」
「あー、じゃあ……片付けは夕方にしよか。大学って何時までなん?」
「昼で終わります!」
「嘘こけ。自主休講はナシやで」
「……見抜かれた……凄ぇ。なんで?」
「分かるわそんくらい。おまえのパターンもだんだん読めてきたで」
 驚く相手に得意気にふふんと鼻を鳴らしてやる。事実、思ったことを素直に顔に出す巧矢は、いくら人付き合いが苦手だと自認する安曇であっても分かりやすい。それが功を奏する時もあり、裏目に出る時もある。たとえばこんな風に。
「それって……なんかちょっと、嬉しいッスね」
 俺のことちゃんと見てくれてるってことですもんね。
 浮かれて鼻歌さえ歌い出しそうな気配の輩に不穏なものを感じつつ、今更どうやって取り繕ってよいかも分からぬ店主は、取りあえず「じゃあ16時に」と手短に話を切り上げて電話を切った。
 掌の中、未だ光る液晶。
 暗闇に照らし出された頬は赤く。
「なんなん、あいつ……。普通言うか!?」
 物言わぬ携帯相手に文句を並べ。
 落ち着きなく泳ぐ目線がその心境を語っていた。 

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初めての安曇視点。これが巧矢視点だったら発禁になってたかも知れません……。
いやー、恋の威力って凄いですよねー(まるで他人事)

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seasons #13 に続く