seasons #42
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「はー、お腹いっぱい。超幸せ〜〜〜」
平らげた何枚もの皿を見下ろし、巧矢は満足気にノビをする。
ドライバーの遅番シフトと花屋の閉店時間がちょうど重なる金曜日、帰り掛けに顔を出しては連れ立って遅い夕食を摂るのが習慣になりつつあった。今日はどこに、という何気ない問いに返った答えは友坂家で、こうして念願の手料理を振る舞われるに至る。経緯はさしてないが、推測するに、花を褒められたのが余程嬉しかったと見える。
かわいいなぁ、と反芻しつつ、巧矢はヘラリと頬を緩めた。
「へへ。安曇さんの手料理、凄い美味しかったです」
「そらよかった」
「なんてったって隠し味は愛情ですもんね!」
「それはどうかな!」
間髪入れぬツッコミはさすが関西人の血か。一瞬の間をおいて大型犬が騒ぎ出すのを放置しつつ、いそいそとお茶を煎れてやるあたり手慣れたもの。
「ホント、安曇さんて家庭的ッスね」
「必然的にやり慣れてるからな」
言外に触れる、彼の生い立ち。両親がいない子供時代に彼の苦労が忍ばれた。
「まぁでも、ひとりじゃよう作らん。食ってくれるヤツがおらんと張り合いもないし」
「それなら俺、毎日通いますよ。安曇さんのご飯毎日食いたい」
「ハハ、言うと思った。……多少不味くても食わなあかんねんで?」
「そんなことあるわけないじゃないスか。仮にどんな味だとしても、安曇さんが作ってくれたものなら残さず食える自信があります」
任してください、とVサインを作ってみせるとなぜか頬に朱が散って。もごもごと言い訳をするのがかわいくて、そんな彼をいつまでも見ていたいと思ったのだけれど、現実はそれを許してくれない。
「……あ、もうこんな時間」
また来ますね、と言い置いて、僅かな逡巡の後に引き寄せる。
「ん…」
そっと重ねた唇、腕にすっぽりと収まる肩に改めて愛しさが募った。
「……ほな、気ィ付けて帰りや」
「はーい。……って、あ…」
「ん?」
「猫がいる」
玄関のドアを開けた先、ニー、と細い声が足下から上がる。野良猫と覚しき細い身体はすぐにどこかの誰かを連想させた。
「うわ、どないしたんやろ、コイツ」
「捨て猫ってわけでもなさそうッスね」
先に手を伸ばした巧矢には目もくれず、真直ぐに家主の足下に向かった猫は、身動ぐ足下など何のその、すぐに身体を擦り寄せて来る。
「うわ、コラ、毛ェ付くやん」
「安曇さんに凄い懐いてますけど……猫嫌いですか?」
背中や頭を撫でるどころか、どちらかと言うと遠退きたそうな反応に首を傾げる。けれどポツリと漏れた「情が移るからあかんねん」という言葉に巧矢はハッと動きを止めた。
「気紛れで優しくしたらあかん。放り出されて初めて、寂しさを痛感すんねや」
生い立ち、いわば彼は自分の人生そのものにトラウマを見ている。それが堪らなくて、少しでも今を見て欲しくて、巧矢はその肩を引き寄せた。強く強く抱き締めながら、この想いが伝わることを切に願う。
「俺達は皆、ひとりでいることの寂しさを知ってるから、ふたりでいることを大事に出来るんです」
安曇さんには俺がいるよ。
そう付け加えた背に、そろそろと回る両腕。僅かに残る躊躇いすら掻き消すように巧矢はぎゅっと力を込めた。
「……もう、戻られへんやん」
声が少しくぐもっていたのは、思い過ごしでなければ嗚咽を堪えているから。だからそっと言葉を続ける。重荷を分けて欲しいとねだる。
「過去に戻る必要なんてないです。ずっと未来を見てましょうよ」
ね、と促すと、少し置いて僅かに首が縦に振られた。
何があっても、どんな時でも。
忘れないで。
あなたには、俺がいることを。
俺には、あなたがいることを。
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安曇ちゃんの初手料理は煮物とかだとグッと来るな〜〜。主婦向きの店主。
ワンコもだんだん口説けるようになってきましたね。成長成長!
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seasons #43 に続く
seasons #41
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翌日。
配達で店を訪れるなり、巧矢は満面の笑みで昨日の戦果を報告した。
「安曇さん安曇さん、昨日ね、カサブランカ凄く喜んでもらえましたよ!」
荷物の検印など後回し。取り敢えずは店長を奥に引っ張って行くと、待ち切れないとばかり言葉を続ける。
「安曇さんがお花大事に扱ってくれるのが分かるって。だから seasons のお花は違うって、ships のバーテンさんが」
「そんなん言うてはった? 嬉しなぁ」
「ね。俺も凄く嬉しいッス」
珍しく無防備に頬を緩ませる姿を充分堪能した後で、巧矢は起爆剤を投下した。
「あ、ついでにね、安曇さんを好きなこともバレました」
「……は!?」
「いやー、鋭いですよね、あの世界の人はー」
「いうかおまえがモロ出しなだけやろ!?」
「……人を変態みたいに言わないでくださいよ……」
似たようなモンだとの追い打ちにヨヨヨと泣き崩れつつ、そういえばもうひとつ言うことがあったっけ。
「でね、お店の前ですっかり意気投合しちゃって、本格デビューしてきました」
「おまえ苦手ちゃうかった?」
「コウさんいい人なんですよー。ついでにコウさんの彼氏さんにも会っちゃった」
「……どこまで行くねん、おまえは……」
自分の記憶が確かならばその直前は半泣きだったはずなのにと訝しがる安曇を余所に、勝手が分かってきた配達員は的確にポイントを狙い打つ。
たとえばそれは、こんな風に。
「彼氏さんにもお花褒められました」
「そ、そら……えぇけどさ……」
途端、店主の頬が緩むのが見える。なんて分かりやすいと思っても苦笑に止め、決して口に出してはいけない。それが処世術というものである。
「カサブランカってコウさんの好きな花なんですって。だからふたりともにっこにこで」
まんざらでもない表情に目を細めつつ、ふと昨日の遣り取りを思い出した。
「そういえば、安曇さんはもっとシンプルなのがいいって言ってましたよね」
「あぁ、好きな花の話? んー、せやなぁ。カサブランカはちょっとゴージャス過ぎるわ」
「じゃあ薔薇とか?」
「大差ないほど豪華なん選んでどないすんねん」
「なら……えーと、マーガレット?」
「お、勉強の成果か?」
珍しく花の名前が出て来たことで安曇の瞳がキラリと光る。その期待した様子に少々押されながらも、巧矢は必死に頭の中の植物図鑑を捲っていった。
「シンプルなんでしょー? ……んーと、チューリップとか、ベゴニアとか……あとえーと、菫とか?」
「イイ線いくやん。頑張ってんな」
よぉ覚えたな、と頭を撫でられ、文字通り大型犬はご機嫌だ。そんな子供のような笑顔につられて笑った飼い主は、アレ、と言って白い花を指差した。
「……カラー、でしたっけ?」
太く真っ直ぐに伸びた茎。萼に向かって少しずつ黄緑色に移り変わるグラデーションが白に映える。まるで折り紙のそれのように黄色い花びらを取り巻く白い萼が、あらゆる装飾を圧して潔ささえ湛えていた。
「あ〜〜〜〜〜。うん、分かる。安曇さんて感じします」
何度もコクコクと頷いて見せると、彼は眉を下げて苦笑した。
「妙に納得してんなぁ。そういうおまえは何が好きなん?」
「俺? 向日葵!」
「うわ、分かる! 巧矢っぽいわー」
「な、なんスかも〜〜。ホラ、自分だって」
「ホンマやな」
顔を見合わせて吹き出して。
お互いのことを少しずつ知って。
穏やかな午後、話は止めどなく続いてゆく。
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<カラーの豆知識>
花びらに見える部分は植物学上「苞(ほう)」と呼ばれる部分で
萼(がく)が変化したもの。雌しべに見える黄色い部分がお花です。
ちなみに白いカラーの花言葉は "乙女の美"。
狙ったわけでもないのに、安曇ちゃんたら……www
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seasons #42 に続く
message(1周年記念祭)
[.life] へようこそ、れんです。
当ブログもおかげさまで開設1周年を迎えることが出来ました。
これも日頃遊びに来てくださる方、
メッセージや拍手等で励ましてくださる方あってのことと、
この場を借りまして深く御礼申し上げます。
皆様への感謝の気持ちを込めまして、ささやかながら
[.life] 開設1周年記念祭を開催させていただきたいと思います。
通常更新の他、読み切りSSやセリフSSなど、
いろんなジャンルをちょっとずつのアラカルトです。
簡単な紹介も付けましたので、ご参考にしていただき、
お付き合いいただければ嬉しいです。
これからも [.life] をどうぞよろしくお願いいたしますv(^-^)v
『seasons #40』
ワンコ×ツンデレのシリーズ最新作です。
今日は『sign』のコウ&渉も友情出演中。
『cherry』
常磐高校生徒会シリーズのセリフSS。
記念日ならではのイチャイチャぶりです(当社比)
『butterfly』
モノローグっぽい感じの実験的作品。読み切りです。
好みは分かれそうだなぁ……。おまけとしてどうぞ。
『ai』
こちらも閉鎖的な雰囲気の実験的作品。読み切りです。
日本語の異口同音あそび。
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