seasons #19
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教えてもらった場所はごく普通のマンションだった。
アパートのちょっとだけハイクラス、と言った方が適切かも知れない。3F建ての鉄筋コンクリートにはエレベータなどなく、防犯上の理由からか表札もなく、期待より不安が勝る心地で巧矢はそっとドアに手を掛けた。
「お邪魔しまーす……」
インターフォンはうるさいから勝手に入れ、と最後の電話で付け加えられただけあって鍵は開いている。でもこれってちょっと不用心じゃないの?と自分のことは棚に上げて眉を寄せる侵入者。玄関で靴を揃え、そろそろと足を踏み入れた安曇の家は、一言で言うなら質素だった。
物のない家、それが第一印象。生活感は希薄で、ここで本当に彼が寝起きし、自炊していることが俄かには信じられなかった。
静かに広がるフローリング。その上にポツンと置かれた白いベッド。病人の場所はこれ以上ないほど容易に知れた。
「安曇さん」
「おー、巧矢」
声を掛けると強がりなのか、無理して片手を上げてみせる。
「悪ィな、散らかってて」
「そんなことないスよ。俺ん家の100倍は綺麗」
「どんだけ汚い部屋住んでんねん」
酷いなぁ、なんて唇を突き出す相手を笑いつつ、ベッドの上に身体を起こした安曇は熱のせいか頬が紅潮し、それが妙に色っぽい。病人相手に不謹慎なとは重々承知の上なれど、抑え切れないのが情熱の常。
「く、薬とか飲みました? 熱は? 病院は? 風邪ですか?」
「おまえいっぺんに聞くな」
ついさっきも別の誰かに言われたようなセリフを再び頂戴しつつ、熱を測るという安曇に体温計を手渡してやる。
「昨日の夜から寒気してなー、朝起きたら 39℃。無理すれば行けなくもなかってんけど、しんどいから休んで寝てたわ」
「それで正解ッスよ。今もまだ熱出てるでしょ」
「まー、でも単なる発熱やし。朝に比べれば下がってきてん。……お、ホラ、38℃ちょいやん」
「それでも立派な病人ですっ」
得意げに翳して見せる体温計を奪い取ると、問答無用で布団に押し込む。
「じゃあ病院は行ってないんスね? 今から行きます? 付き添いますから」
「えぇよ。薬飲んどいたし」
「じゃ、なんか食べれます? 俺買って来ます」
「いやー……食欲ないし」
「そんなら飲むものだけでも」
「お茶買うてもらったし」
「えっとえっと、冷えピタ貼るとか」
「俺氷枕のんが好き」
まったく、ああ言えばこう言う。まるで漫才のようである。折角駆け付けたというのに役立てることが殆どない事実に巧矢はしゅん、と項垂れた。それはもう見ていて気の毒になるほどの落ち込みようにさすがの安曇も悪いと思ったのか、苦笑を浮かべながら右手を伸ばした。
「ハハ。んなガッカリすんなや。気持ちだけありがたくもらっとくわ」
そう言って自分より大きな巧矢の頭をポンポンと撫でる。柔らかな茶色い猫毛からは日溜まりの匂いがするような気がした。
「なぁ巧矢……おまえもう少しおる?」
「はい。います」
「そか。……俺、ちょっと眠くて……たぶん薬、効いてきて……」
「いいスよ、寝てください。俺ずっとここにいますから」
そうしている間にもゆっくりと閉じられる瞼。抗い難い睡魔に身を任せる愛しい人を見守りつつ、巧矢は徹夜の覚悟を決めた。
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頭ポンポンされたりご主人様見守ったり、ホントにワンコだなぁとしみじみ。
あれこれ雑用に役立たなくても、寝顔の見張り番には適任です(^-^)v
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seasons #20 に続く
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