seasons #20
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視界一面の白。
ぼんやりと漂う意識は身体との境目を無くし、まるで波間に漂うクラゲのようにどこまでも透き通っている。羊水のよう、と独りごち、そのあまりの言い得て妙な表現に覚醒さえも躊躇った。
カーテンの隙間から差し込む日差しは強く、薄い瞼を通り越して網膜に明かりを届ける。思うより早く水面下に持ち上げられた意識は、だが目の前の景色に忽ちのうちに我を取り戻した。
「安曇さん……!」
目の前のベッドに横たわる彼の額に咄嗟に手を伸ばす。掌にはじんわりとした温度が伝わるのみで、昨日よりだいぶ熱が下がったことを知る。
「よかったぁ……」
大きく肩で息を吐いて。思い切り頬を緩めて笑う。
駆け付けた時には驚くほどの高熱で、飲まず食わずで病院も行かないと言い張る頑固者相手にどうしようかと思ったが、さすが驚異の快復力。伊達に重労働の花屋は営んでいないということらしい。
「あ、布団」
落ちていた毛布を引き上げ、そっと掛けてやる。徹夜を誓った巧矢だったが、やはり日頃の疲れが出たせいでいつの間にか寝ていたらしい。
「ずっと見てたらすぐ掛けてあげられたのに、ごめんね」
そうして布団の上からポン、と優しく叩いたのを合図にするように、家主がゆっくり目を開いた。
「たく、や…?」
小さく呼んだ声には隠し切れない驚きが混じっている。
「ずっとおってくれたんか」
まさか一晩付き合わせるとは思っていなかったのだろう。悪い、と言おうとするのを指先で遮ると、お見舞いの訪問者はニッと笑って見せた。
「ありがとう、の方が嬉しいッス」
「……礼のリクエストなんて聞いたことないわ」
寝起きにも関わらず、しっかり眉を寄せる仕草が安曇らしい。更に笑みを濃くする巧矢に向かって伸びた右腕は、だが次の瞬間意志を持った力でその項を引き寄せた。
「わっ」
まるで抱き寄せられるように。ホンの少し身体を傾けたら吐息が掛かるほどの近さ。
一瞬で跳ね上がった心拍数にどうすることも出来ず立ち往生する輩などお構いなしに、安曇は耳元に唇を寄せ、囁いた。
「おおきに」
「───!」
その瞬間、蘇る記憶。
このシチュエーションは夢の中と同じ。その後の記憶が正しければふたりは見つめ合い、抱き締め合い、そして互いの瞳を閉じて───
「あ、あの……」
思わず飲み込んだ生唾が盛大な音を立てて喉を滑る。フラッシュバックにドキドキするあまり心臓が止まるかとさえ思った。
だって、目の前には夢にまで見た唇。
「なん?」
「いえ、えーと、ちょっとその……笑わないで聞いてくれます?」
「早よ言え」
「実は……夢に、安曇さんが出て来たんス」
「俺?」
「そんで、今みたいに俺のこと引き寄せて」
「へー。デジャブってヤツ?」
「えぇ、まぁ……」
要約すると決してそれだけではない。むしろそれは序章である。だがそこから先は別料金とばかり頑なに押し黙ろうとする相手に対し、嗅覚の鋭い安曇が突っ込まないはずなどない。
「……で、そっから何した?」
「へっ!?」
「なんかあんねんな? じゃなしにそこまで赤い顔はせんやろ」
ニヤリ、と片頬が持ち上がる様はまさにデビルスマイルそのもの。
「え、俺赤いッスか!? マジで!? うわーヤバイ」
「吐け、巧矢。そっから先はどーなんねんっ」
「言えませんっ いくら安曇さんの頼みでもそればっかりは聞けませんっ」
両手で耳を塞ぎ、頑なに首を振って断固拒否を貫こうとする相手に対し、そこは豊富な人生経験が役に立つ。押してダメなら引いてみなとはよく言ったもので、秘密を隠そうとする相手には逆に一旦引くが吉なのだ。
顎を引くと、安曇の誘導尋問が始まった。
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例の正夢がここに来て浮上。実は伏線でした(分かりやすい…!)
ワンコ揶揄うのって楽しそうですよね〜〜。
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seasons #21 に続く
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