seasons #21
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何処の世界にも一枚上手な相手はいるものである。
押してダメなら引いてみろとばかり、踏み込んだばかりの陣地を放棄し、いともあっさり逆方向から切り返してみせる。だがそれは見せかけだけの動きで、相手にはそれと悟らせぬよう巧妙にして確実により深い部分へと進入を計っているのだ。
たとえばこんな風に、話題を変えたりするやり方で。
「そんなんより、今回はいろいろありがとうな。世話なったな」
穏やかな笑みを向けられ、忽ち心臓が跳ね上がった輩には深読みという言葉はない。
「改めて、お礼さして欲しいんやけど」
「そ、そんな、とんでもないッス!」
「片付け手伝うてもらったのに、メシもあんなんやったし……」
「や、美味かったッスよ!?」
目を白黒させ、必死にフォローしようとする姿が好印象で安曇は思わず吹き出した。
「巧矢はかわえぇなァ」
「は、はい!?」
けれど言われた巧矢は混乱するばかり。にこにこしている家主とはまるで対照的な絵面である。
「おまえホンマ、大型犬やんな」
「……犬、スか」
「この場合褒め言葉で」
「そんな方向性ってアリなんですかね……」
どんな風に捕らえたらそれは褒め言葉になるんだろう。これがまだ賢いコリー犬や精悍なドーベルマンあたりならいいけれど、今の口ぶりからはどう頑張ってもゴールデンレトリバー、嫌な予感は元気だけは有り余る雑種を指している。
やや遠い目をする巧矢を余所に、ジリジリと核心に近付いてきた安曇は罠の包囲網を狭め始めた。
「まぁ、そんなこんなで俺は結構おまえに助けてもろてるし、なんかしたいなーと思てるわけ」
「はぁ…」
「……ご褒美、ゆうたら受け取ってくれる?」
覗き込んだ瞳がサラサラの黒髪の奥で怪しく光る。まるで小悪魔。欲しがらずにはいられなくする。
「ご、ご褒美、ですか……」
否応なしに一条の言葉が旨に浮かび、意識せずとも力が入るのが分かった。
「して欲しいこと、言うてみて?」
低い囁きに耳鳴りがする。掌にじんわり汗が滲む。
「夢の続きでもえぇよ……」
あぁ、なんてこと言うんだろうこの人は。だって、だって───
理性が欲望に負けそうになる。引きずられる天秤を必死に支え続ける。辛うじて勝ったのは羞恥か意気地の無さか。だがもう、どちらでもよかった。
「続きは、ダメです」
「なんで?」
「だって安曇さん……たぶん引く」
男が男にキスするなんて。話の主人公になっているなんて。
キョトンと首を傾げる相手を見下ろし、巧矢はギュッと唇を噛んだ。言ってはいけない。願ってはいけない。どんなに俺がこの人を好きでも。それしか考えていないほど夢中でも。
ジッと堪えている巧矢に業を煮やしたか、安曇は真直ぐな目で訴えた。
「引くかどうかは言わな分からんやん。それに、俺は大抵のことでは驚いたりせん」
「でも……」
「なんやねん、おまえらしないな。ハッキリ言え」
「言えませんっ」
「そこまで言われへんのか」
「そりゃそッスよ、キスしてたなんてっ」
「…………言うたやん」
「あー!!!」
誘導尋問見事成功。所要時間は僅かに5分。
「あっはっは! まぁそんなトコやろとは思とったけど」
「引かないんスか!?」
「おまえはどうなん。男とキスする夢とか見て」
「引くわけないじゃないスか!」
いやむしろ超ラッキー! してやったりでごじゃりましっ!
まるで選挙演説最終日ぐらいのテンションで拳を握ったまではよかったが、勢い余って思い切り噛んでいるあたり大型犬の由縁だろうか。そんな微笑ましい様子を見守っていた安曇は何故か策士の顔をしている。綺麗に笑った横頬、ニヤリという擬音がピッタリな表情で。
「……おまえ、俺のこと好きやろ?」
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さぁ来ました。難攻不落の高嶺の花、性格美人な訳がない(笑)
ここからワンコを手玉に取る怒濤の日々が始まります。
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seasons #22 に続く
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