seasons #25
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その日の昼休み。
4限目終業の鐘が鳴ると同時に巧矢は立ち上がった。すり鉢状の大教室、壇上ではまだ解説を加えていた教授がそのあまりの勢いにポカンと口を開けている。数人の学生も何事かと振り返る中、そんなことには構っていられないとばかり件の主は大急ぎで講義室のドアを擦り抜ける。今は一刻も早く知らせたかった───誰って、例の、気の毒な先輩に。
「もしもし一条さん!」
講義棟から真直ぐ正門に向かって走りながら、携帯電話に捲し立てる。
「ご報告があります!」
「聞きたくない!」
内容など聞く前から既に察している一条が門前払いをしようにも、既にスイッチの入った相手は止められなかった。
「聞いてください。俺は遂にやりました……!」
もう二度と元の俺には戻れません、と勢い込んで話す巧矢に一瞬怯み。
「殺ったって……コロシかよ!?」
「いいえ殺されました……」
は!? と耳を疑い掛けた一条に、更なる試練が訪れる。
「そりゃあもう、身も心もトロける朝でした……」
「朝っぱらから何を!?」
「えぇ、おいしくいただきましたとも」
「マジで結合???」
「うわっ」
突拍子もない言葉に、巧矢は駆け下りていた階段の最後の数段を踏み外す。見事尻餅をついた格好で腰をさすりながら立ち上がるものの、普段だったら文句のひとつも言うところ、幸せ絶頂の今は満面の笑顔で受け流す。
「……なんつー言い方するんスか。キスだけですよ」
「うわ、ホントに? ホントにしたのかよ?」
「えぇ、えぇ、そーなんスよ。安曇さんから積極的に求めていただいたりなんかしてもー!」
あぁ、思い出すだけで胸に込み上げるこの甘いトキメキ。
「あんだけ綺麗で美人でストイックで素敵な人っていないじゃないスか、だから経験豊富だったらどうしようとか思ったんですけど……。ふふふ。俺のキスにそれはもう素直な反応を返していただいちゃいましたよ……」
「生々しいから詳細はいらないっ」
「しかもねー、ホラ、関西弁じゃないスか。『あかん』って言うんですよ! もうこれどうですか一条さん! 俺もう今すぐ死ねる!」
だったら死んでくれ……と言い返したいのを大人の態度で押し込めつつ、一条は僅か30分しかない昼休憩の最初をこんな電話で潰してしまった不運を嘆く。ホントにいい後輩を持ったもんだよ……と半ば遠い目をしつつ、浮かれ捲る巧矢に老婆心から釘も忘れない。
「巧矢。おまえ、本気なのか?」
「勿論です。……一条さん、こういうの気持ち悪いって思ったりする?」
不意に不安気な色を帯びる声に、電話の向こうの先駆者はくすりと笑った。相変わらず分かりやすい、まるで大型犬のようだと。
「いや、俺博愛主義者だし。ただ世間の風当たりも強いし、おまえまだ学生だしな。俺のかわいい後輩が傷付くのが嫌なだけだ」
「一条さん……」
思い掛けぬ本音に巧矢はつと立ち止まる。相手の言わんとしていることが分かるだけに、改めて大きく息を吸った。
「俺、傷付いてもいい。安曇さんを好きな気持ちに変わりないし、自分に嘘を吐いて生きたくないんです。……たとえこの先失恋してボロボロになったとしても、俺はきっと後悔しません」
刹那的な生き方だと思われるかも知れないけれど、今を生きなければ幸せな未来なんてきっとない、そう確信していた。
「……そっか」
やれやれ、と静かな溜息。それは安堵か、諦めか。けれど続く声音がとても柔らかかったから、分かってくれたのだと思う。
「ま、そーいうのがおまえのいいトコかも知んないな。精一杯頑張れよ」
「はい!」
「……あ、それと巧矢」
「はい?」
「ノロケ電話は掛けて来なくていいから」
「何ゆってんですか! 近況報告はかわいい後輩の努めッスよ!」
あー余計なこと言った……と激しく後悔を始めた一条に対し、スッキリした顔の巧矢はウキウキとこれからバイトなのだと告げる。またいらん心配の種が、と遠い目をしながら通話を終了させた一条隆志の明日はどっちだ。
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……お礼画面に更新がなくてすいません(土下座)そ、そのうち……!!
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seasons #26 に続く
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