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 2008年06月 

seasons #31 

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 入る時はあんなに大騒ぎしたのに、出るとなったらあっけない。
 何やら意味深な感想を漏らしつつ家路に就くのは頭に包帯を巻いたままの巧矢である。擦れ違う人擦れ違う人、自分の頭部を見ては怪我人なのかと道を空けてくれるのが痛々しい。「あ、お構いなく……」と申し訳ない気持ちで一杯になりながら、なるべく人目を避けてトボトボと歩く夏の日の午後。だがいくら気持ち小さくなったところで、元が180cmの身長では焼け石に水というものである。
 かくして力一杯悪目立ちしながらワンルームマンションに辿り着き、やれやれとドアを開けた、まさにその時。着信を告げた携帯の液晶には一条の名前が表示されていた。
「あ、そういや報告しようと思ってたんだよね」
 繰り返す着メロを鼻歌でなぞりながら呑気に出た電話口、だが途端に端末を頭から 1m遠ざけるほどの勢いで捲し立てられる。
「巧矢無事かー!?」
「……い、いちじょーサン、声デカイ……」
 キーンという耳鳴りに目を白黒させつつ、思わず玄関先で立ち眩む。
「おまえ、階段から落ちた弾みに頭打って回りに血の海作ったってホントかよ!」
「いや、それ、かなりの大嘘ッス」
 本当なら死んじゃうじゃないですか、と付け加えると納得したらしい相手は、チェっという舌打ちで応えた。
「なんだ、ガセかよ」
「あ、ちょっと。心配すんの止めんの止めてくださいよ」
「まぁ、無事ならいいけどさ。さすがにびっくりしたかんなー!」
「えぇえぇ、そうでしょうとも。ちなみに頭切ったのは本当なんで、あんまりデカイ声で話されると響きます……」
「おー、そっか。悪ィな!」
「いや、だから……」
 声に笑いが含まれている。明らかに悪ノリし出したどうしようもない先輩に溜息を吐きつつ、それでもこうして心配して電話を掛けてきてくれたことには素直に感謝。勿論、恒例のおまけも忘れない。
「ところで一条さん、この電話凄いナイスタイミングですよ」
「……あ、その口調、嫌な予感」
「あのね、あのね、俺ね、安曇さんに口説かれちゃったー!」
「おまえに惚れるとかってアリなの!?」
「失敬な。俺が怪我したって聞いてすっ飛んで来てくれたんスよ。もー俺、超愛されてる!」
「あーあーハイハイ。もう否定しねーよ、めんどくせぇから」
「あ、なんか投げやりにされると張り合いがないッス」
 もっとこう喜んでくれなきゃ、と無茶な注文を出しつつ、俺はいつも全身全霊で拒否ってたんだとブーイングで返される。だがそれとて聞こえてなどいない。幸せ絶頂でもはや別世界の住人となった巧矢に恐いものなどないのだ。
「ま、そんなわけで雨降って地固まる的にお互いの気持ちも確かめましたし……。後は目眩く恋人としての階段を上るわけですよ……」
「ってことは、その……エッチ方面に?」
「勿論です!」
「いやいやいや、巧矢いいからちょっと待て」
「いいえ待てません! 恋の片道切符、愛の暴走列車です!」
「何ワケ分かんないこと言ってんだ。ていうかおまえ、分かんの!?」
「ふふ……そのへんは谷野さんに聞きました」
「谷野ちゃん!!!?」
 思い掛けない登場人物に一条の声が裏返る。巧矢のことを話した時はさすがに驚いていたと思ったのに、さすが許容範囲の広い妻帯者。単に好奇心旺盛とも言う。
「知らなかった……あいつ、グレーゾーンだったのか……」
「一条さんも来ましょうよ〜」
「冗談じゃねーよ。俺を誘うなっ」
 心底怯え始めた相手に巧矢はカラカラと笑いつつ。
「次の報告会では、俺はもう一条さんの知らない俺になっていると思いますが……」
「たたた巧矢ー!」
「では、ごきげんよう♪」
 そう言って一方的に電話を切り、今や別の意味で慌てているであろう一条にくすりと笑う。
「ごめんネ、一条さん」
 まずは言霊。有言実行。
 恋人への昇格を誓って巧矢はグッと拳を握った。

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いよいよそっち方面に直走る時がやって参りました……長かった……。
関西弁の萌を存分にお届け出来るか心配ですが、頑張りますよ!!(鼻息)

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seasons #32 に続く