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 2008年06月 

seasons #36 

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「んふふ〜〜〜ふふ……んふふふふ」
 不敵な笑いが漏れ聞こえる休憩室。
 もとい、詰め所には、仕事上がりのドライバー達がタイムカードを押しに表れては脱兎の如く逃げ出す現象が発生している。皆一様に目を泳がせ、見てはいけないものを見てしまったとばかり複雑な表情を浮かべるのには歴とした理由があった───誰あろう、諸悪の根源は巧矢である。
「あ〜〜〜もう、ねぇ……ふふっ んふふふ」
 頻りに身をくねらせ、だらしなく頬を緩め放題の有様からは好青年の面影などない。会う者会う者様子がおかしいことに首を傾げながらドアを開けた一条は、問題児の様子を一目見るなりすべての状況を把握した。
「巧矢ー。こっち戻ってこーい」
「あ! 一条さんじゃないスか。もー、超ナイスタイミングですよ!」
「いや、聞かない。聞きません。おまえのノロケなんて聞きたくないっ」
「んふふ、あのね〜〜〜」
「聞かねーよっ!!!」
 日光の猿並に両手を耳に押し当て、何があっても断固拒否のポーズをアピールしながら押し問答。だが言葉以上に雄弁に語る眼差しが、おおよその事の顛末を伝えてくるから始末が悪い。むしろキッパリ言われた方がよかったかも、なんて半分自棄を起こしつつ、一条は近くの椅子に腰を下ろした。
「おまえもう仕事終わったろ? さっさと帰れ」
「うわ、冷たいなぁ。虫追っ払うみたいにー」
 ていうかですねぇ、俺これから安曇さんとデートなので。
 とっておきの情報とばかり付け足された一言に、水を差してやろうと企てた計画は物の見事に崩壊した。それどころか意中の相手の名を出すキッカケにすらなり、結果的にとんだ藪蛇である。事実、お花畑に半分足を突っ込んだ輩がドリームを回し始めても止める術など何もない。
「安曇さんってば最高でしたよ……」
「うわっ 緩衝材無しで直球かよ!」
「そうなんスよ……。もっと慣らしてからって言ったのに、我慢出来ないーなんてかわいいこと言われちゃいまして……」
「俺は我慢したくないんだ!」
「やっぱそういうもんなんですかねぇ。余裕がないのも燃えますけどね!」
「いや余裕とかそういうんじゃなくて! 単に耐えられないだけで!」
「そんな、待てないとかねー、言われてみたいセリフですよね、男として!」
「頼む巧矢!」
「お願いされちゃ頑張らないわけにいかないっしょ!」
「いやもう充分だから!」
「限界ギリギリの時ってなんであんな色っぽいんでしょーねー!」
「俺の話を聞け! いいから!」
「いや〜〜〜、素敵な夜でした……」
「ううう……」
 掛合漫才なのか噛み合っていないのか真実は闇の中。唯一分かっていることと言えば、目眩く一夜の概要を知る気もサラサラなかったのに把握しているというこの事実。見知らぬ第三者の話ならともかく、1年以上相棒を務めた巧矢の報告に複雑な心境である。
「……あ、それより一条さん、今日どうしたんスか」
「おまえ気付くの遅ぇよ」
「俺の新しい門出を祝うために来てくれたとか?」
「何が門出だ。おまえはせいぜい家出だろーが」
 顔を顰めてみせたところで浮かれた相手には嫌味すら通じない。
「そうそう、門出といえばスイートピーですよ。花言葉が "門出" だって安曇さんに教わりました」
「……何言ってもそこにもってくのはある意味才能だな……」
 にこにこ笑う後輩に白旗を振りつつ、一条はガックリと項垂れる。更には「あ、そろそろ行かなくちゃ」といそいそ帰って行った後ろ姿を見送って、押し寄せる疲労感にハンカチを噛んだ。
「あー、もう! 飲まなきゃやってられっかー!」
 そうして携帯から谷野に電話し、問答無用で引っ張り出す。
 被害を最大級に広めながらも幸せな本人達は蚊帳の外───そういうものである。

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昨日まではネチネチしたR指定にお付き合いありがとうございました。
今日からはまた我を取り戻して爽やか路線を低空飛行の予定です(笑)

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seasons #37 に続く