seasons #38
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恋のスパイスは些細な変化、とは誰が言ったものだったか。
いつもなら顔を見せると同時に元気な声を聞かせるはずのドライバーは、挨拶どころか笑顔もなく、店主の顔を見るなり緊張の糸が切れたとばかりヘロヘロとその場にへたり込んだ。
「どないしてん、えらい疲れた顔して」
「あずみしゃ〜ん……」
もう俺ダメッス、と言い残したきり遠い目をする巧矢を取り敢えず奥に引っ張っていくと、手荷物もそこそこに椅子に座らせる。冷蔵庫から冷たい麦茶を出してやり、人心地着くまで待っていると、それとなく回復したらしい輩は困った顔で告白した。
「実は……今日は本気の2丁目スポットに行って来まして……」
「おまえもしかして初めてか?」
「デビューしちゃいましたよ、遂に……。よりにもよっておかまバーに……」
なんて言うかすべてが凄かったッス、と縋るような目付きの巧矢に安曇は笑いを禁じ得ない。恐らくはこの容姿、あれこれと構い倒されそこそこの恐怖体験を遂げたのだろうとは容易に想像がついた。
「あー、テンションいうかノリがな。客がおらんと普通に恐いしな」
「やっぱここにもそーいうお客さん来ます?」
「まぁ場所が場所やし。大抵は何とか……」
そこまで言い掛けてふと、複数のキーワードからTODOタスクを思い出した安曇は忽ち店長の顔つきに戻る。
「巧矢、悪い、いっこお願いがあんの忘れてた」
「いいッスよ。行って来ます」
安曇さんのためですもん♪とにっこり笑ってみせたのも束の間。
「……またゲイバーでも?」
「えー! マジで!? それちょっと……」
というかかなり、という言葉を飲み込んで眉を寄せる相手に対し、使えるものは使い倒すのが信条の安曇、無論この身長差も武器のひとつである。
「行ってくれへん?」
わざとらしく小首を傾げてみせれば10秒と保たずに陥落することを知っている。
「〜〜〜! 分かった。分かりました。上目遣い禁止ッスよ、もう」
「おおきにな♪」
そうして無理矢理承諾を取り付けるなり、安曇はバックヤードから梱包された大きな鉢植えを携えてきた。
「うわ、凄い豪華。百合ですか?」
美しさに目をキラキラさせる巧矢を前に、その反応が嬉しいのだとばかり安曇の頬も持ち上がる。
「カサブランカやで。綺麗やろ」
「いい匂い……安曇さんに似合いますよ」
「俺? んー、もーちょいシンプルなんがえぇわ」
これを端から聞いたらただのノロケ話なのだがいかんせん、ふたりの世界にレフリーは存在しないのだ。
「これ、絶対喜ばれますね。早く届けてあげましょうよ」
「……ふふ」
「なに?」
「いや、おまえのそーいうトコ、好きやなぁ思て」
くすくす笑いながらサラリと告げるのが今更ながら心臓を直撃。まったくこの人は心の準備もない時に大事なことを言う。
「あ、安曇さん、直球……」
「おまえやん、それ」
左胸を押さえて照れる相手を余所に、安曇は伝票を取り出して。
「今から書くから待っといて?」
「あぁ、いいッスよ。俺ちょっと行って届けちゃいますから」
「そんなんしたら仕事にならんやん」
「ついでですし。それに一旦集配所に持ってったら着くの明日になっちゃう」
お花早く見せたいでしょ?とウィンクしてみせる巧矢に、店主はニンマリと頬を持ち上げた。
「やっぱ好きやわ」
「〜〜〜! あああ安曇さん、だから……!」
「ほんなら、ココ。よろしくな」
あぁ、まるで飴と鞭。
届け先である店の名前と住所のメモを頼りに、にわか花屋のご用聞きとなった巧矢はいそいそと seasons を後にした。
向かう先は新宿 2丁目、ships である。
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『sign』シリーズでコウの誕生日にカサブランカを飾るシーンがありますが、
それがここ seasons のお花。という裏設定。裏過ぎて分かるわけがない(^-^;)
ちなみに『ships』シリーズの登場人物が友情出演するお話は、
必ずタイトルが『s』始まりです(単に私が忘れないように)
というわけで、明日からしばらくコウ達にもお付き合いください(^-^)/
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seasons #39 に続く
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