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 2008年06月 

seasons #42 

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「はー、お腹いっぱい。超幸せ〜〜〜」
 平らげた何枚もの皿を見下ろし、巧矢は満足気にノビをする。
 ドライバーの遅番シフトと花屋の閉店時間がちょうど重なる金曜日、帰り掛けに顔を出しては連れ立って遅い夕食を摂るのが習慣になりつつあった。今日はどこに、という何気ない問いに返った答えは友坂家で、こうして念願の手料理を振る舞われるに至る。経緯はさしてないが、推測するに、花を褒められたのが余程嬉しかったと見える。
 かわいいなぁ、と反芻しつつ、巧矢はヘラリと頬を緩めた。
「へへ。安曇さんの手料理、凄い美味しかったです」
「そらよかった」
「なんてったって隠し味は愛情ですもんね!」
「それはどうかな!」
 間髪入れぬツッコミはさすが関西人の血か。一瞬の間をおいて大型犬が騒ぎ出すのを放置しつつ、いそいそとお茶を煎れてやるあたり手慣れたもの。
「ホント、安曇さんて家庭的ッスね」
「必然的にやり慣れてるからな」
 言外に触れる、彼の生い立ち。両親がいない子供時代に彼の苦労が忍ばれた。
「まぁでも、ひとりじゃよう作らん。食ってくれるヤツがおらんと張り合いもないし」
「それなら俺、毎日通いますよ。安曇さんのご飯毎日食いたい」
「ハハ、言うと思った。……多少不味くても食わなあかんねんで?」
「そんなことあるわけないじゃないスか。仮にどんな味だとしても、安曇さんが作ってくれたものなら残さず食える自信があります」
 任してください、とVサインを作ってみせるとなぜか頬に朱が散って。もごもごと言い訳をするのがかわいくて、そんな彼をいつまでも見ていたいと思ったのだけれど、現実はそれを許してくれない。
「……あ、もうこんな時間」
 また来ますね、と言い置いて、僅かな逡巡の後に引き寄せる。
「ん…」
 そっと重ねた唇、腕にすっぽりと収まる肩に改めて愛しさが募った。
「……ほな、気ィ付けて帰りや」
「はーい。……って、あ…」
「ん?」
「猫がいる」
 玄関のドアを開けた先、ニー、と細い声が足下から上がる。野良猫と覚しき細い身体はすぐにどこかの誰かを連想させた。
「うわ、どないしたんやろ、コイツ」
「捨て猫ってわけでもなさそうッスね」
 先に手を伸ばした巧矢には目もくれず、真直ぐに家主の足下に向かった猫は、身動ぐ足下など何のその、すぐに身体を擦り寄せて来る。
「うわ、コラ、毛ェ付くやん」
「安曇さんに凄い懐いてますけど……猫嫌いですか?」
 背中や頭を撫でるどころか、どちらかと言うと遠退きたそうな反応に首を傾げる。けれどポツリと漏れた「情が移るからあかんねん」という言葉に巧矢はハッと動きを止めた。
「気紛れで優しくしたらあかん。放り出されて初めて、寂しさを痛感すんねや」
 生い立ち、いわば彼は自分の人生そのものにトラウマを見ている。それが堪らなくて、少しでも今を見て欲しくて、巧矢はその肩を引き寄せた。強く強く抱き締めながら、この想いが伝わることを切に願う。
「俺達は皆、ひとりでいることの寂しさを知ってるから、ふたりでいることを大事に出来るんです」
 安曇さんには俺がいるよ。
 そう付け加えた背に、そろそろと回る両腕。僅かに残る躊躇いすら掻き消すように巧矢はぎゅっと力を込めた。
「……もう、戻られへんやん」
 声が少しくぐもっていたのは、思い過ごしでなければ嗚咽を堪えているから。だからそっと言葉を続ける。重荷を分けて欲しいとねだる。
「過去に戻る必要なんてないです。ずっと未来を見てましょうよ」
 ね、と促すと、少し置いて僅かに首が縦に振られた。
 何があっても、どんな時でも。
 忘れないで。
 あなたには、俺がいることを。
 俺には、あなたがいることを。

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安曇ちゃんの初手料理は煮物とかだとグッと来るな〜〜。主婦向きの店主。
ワンコもだんだん口説けるようになってきましたね。成長成長!

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seasons #43 に続く