seasons #43
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暑い夏は花火の残り香を残して終わろうとしていた。
そういえば今年は海にも行かなかったっけ、とぼんやり思い出しながら巧矢はハンドルに身を凭せ掛ける。今頃は安曇さんと楽しくお喋りしてるはずなのに、と時計の針に目を遣りつつ、けれど現在地は新宿の西の外れ───そう、本来東エリアを担当している巧矢は今、ピンチヒッターという名の便利屋としてなぜか駅を挟んだ反対側でせっせと荷物を運んでいるのだ。
「最初は数日とか言ったくせに……」
社長の顔を思い出して愚痴ってみたところで事態は何ひとつ変わらない。もうかれこれ1ヶ月近く擦れ違いの生活を続けていた巧矢にとって、そろそろ我慢も限界である。今日こそ会いに行こうと仕事を切り上げ、いそいそ詰め所に戻ってようやく、
「あ、今日って seasons の定休日じゃん……」
痛恨ミスにガックリ肩を落とす。もう涙も出ないとばかり撃沈する後輩を励まそうと髪を掻き回したのは、誰あろう先輩の谷野であった。
「どうしたー? 元気ないじゃん」
「谷野さん……」
うわーん、と泣きながら縋り付くと、大型犬の扱いが上手い谷野がさり気なくパイプ椅子を勧めてくれる。軋む古い椅子にふたり並んで腰掛けつつ、巧矢はゆっくりと事の顛末を説明した。
無論、掻い摘んで喋るなどという器用な真似は出来るはずもなく、あちこち脱線しては急に本題に戻るという実に全体を把握し難い話し方ではあったものの、一条といい谷野といい、まるですべてお見通しのように察してくれるからさすが以外の言葉がない。
「そっか。折角上手くいってたのにな」
「喧嘩したワケでもないのにこの状況ってちょっとあんまりだと思いません?」
まーなぁ、と髪を掻き上げつつ、谷野は胸ポケットから取り出した煙草に火を点ける。
「手っ取り早く電話でもすればいいのに」
「いやー、あっちが店閉めんの遅いですし。そっから帰って、飯作ってるところに掛けるのも悪いかなって……」
「じゃあ掛けてもらえば?」
「それはちょっと……」
どうしても気が引ける。特に用事があるわけでも、伝えたいことがあるわけでもない。声が聞きたいから、そんな理由で安曇を引っ張り回すようで悪いと思った。
「休みの日は合わないの?」
「基本的に向こう平日お休みなんですよ。俺は大学ですけど……」
「メールとか」
「面倒くさがり相手なので……」
「もー。どんだけ放置プレイだよっ」
「ややや谷野さん!?」
際どいセリフに一瞬ギョッとする。
「おまえがそんだけ気にしてんのに、相手は何もないわけ? それってちょっとひどくない? ていうかなに、愛情表現に物凄い抵抗があんの? それとも単に愛情が薄いとか?」
「うぅ、次々胸に刺さる言葉……」
痛いと感じるのは言葉のせいか、それとも核心を突くからか。
「会いたい時にいつでも会えるクラスメイトじゃないんだからさ。ましてや全然別の生活してんじゃん。お互いが努力しないと続くモンも続かないよ」
「えぇ……分かってますよ……」
それはもう、痛いほど。
自分の努力が足りないのかも知れない。相手の努力が足りないのかもしれない。それを相手に聞くことが出来ない。求めることが出来ない。これ以上傲慢になっていいのか本当は自信がなかった。
だって、あの人の隣が許されるだけで自分にとっては奇跡なのだ。ましてや好きになってもらえたなんて、夢がいつ覚めるか考えただけで恐くなる。信じていないわけじゃないけれど、正直、諸手を挙げて心配無用と言い切るにはひどく不安定な状態であることもまた自覚していた。
「……たくちゃんでも、そんな顔すんだね」
「しますよ……。てか、初めてしたんスけどね」
「なかなかいいよ。苦み走った男の顔」
「それ褒めてんスかー?」
眉を下げて苦笑して。だがその反面、これまで見て見ぬ振りをしてきた己の内面に向き合い、戸惑いを覚えているのが手に取るように分かるから、谷野は最後の助言を授けた。
「キッカケがないと変われないなら、無理矢理作るってのもアリだと思うよ」
「キッカケ……」
口の中で反芻する傍ら、よいしょ、と掛け声付きで立ち上がる人。仕事あるから先行くわ、と言い置いて出て行く後ろ姿を見送りながら、礼を言うことも忘れて巧矢は一心に考えていた。
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ラブラブ期の予期せぬ擦れ違いにさすがのワンコも凹みつつある模様。
さて、嵐の予感です。
こんなトコでなんですが、66666hit over ありがとうございました!
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seasons #44 に続く
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