seasons #44
←前話へ
ふたりが会えたのはそれから5日後のこと。
もうどれくらい振りですかねぇなんて。熟年カップルでもあるまいしと心の中で溜息を吐きつつ、配達途中の巧矢は店の奥で頬杖を突く。方や花の世話に余念のない店主は呑気に、たぶん2週間ぐらいなんちゃう?と返す。
「……そうでしたっけ」
本当は、1ヶ月以上時は流れていたから。上の空に返事をするしか出来なかった。
「なんや、元気ないやん」
「そんなことないッスよ」
振り返ったあなたは、会えなかった寂しさは微塵も見せず。
ねぇ、安曇さん、俺がいなくてもなんともなかった?
喉元まで出掛かった言葉は勇気の無さに押し潰された。聞いてみたところで初めから期待する返事以外欲しくない。そんなことない、と否定してもらえなかったら立ち上がれない。
折角無理矢理時間を割いて会いに来たというのに、これでは逆効果しか生まれないようで巧矢は焦っていた。事実、顔を出した後の安曇といえば、まるで昨日の今日のようにサラリとしたもので、今だって薔薇の水換えにバックヤードを忙しなく行き来している。自分の存在がまるで空気みたいだと思った。
───ダメだ、このままじゃ。
小さな不安は時間と共に膨れ上がる。有ること無いこと想像しては全部悪い方に持って行く。キッカケがないなら作ればいいんだ。
奥から戻った安曇を捕まえると、巧矢は徐に立ち上がった。
「ねぇ、安曇さん」
「……ん? どした、改まって」
「あのね、ちょっと聞いて欲しいことがあるんです」
「えぇよ。水換え終わったし、注文まとめながらでよければ」
「あの……」
これまでであれば何気なく受け流せたであろう言葉が、なぜか心のささくれに引っ掛かる。
「出来たら、ちゃんと聞いて欲しいんです。いや別に、そんな凄いことじゃないんスけど」
「……どしたん?」
下から見上げるつぶらな瞳に、巧矢はぎゅっと拳を握った。
「あのね、最近ずっとゆっくり会えなかったでしょう? だから、少し時間をもらえないかな、と思って」
「ん?」
「たまには、旅行でも行きませんか。1泊2日とかでいいんです。場所も、どこでも。安曇さんと一緒にどっか行きたい」
心の中のドロドロした感情をすべて押し込めて、なるべく上辺だけを掬い取った。それが巧矢に出来る精一杯だった。けれど。
「……それは、あかんわ」
「なんで?」
ゆるく首を振られた瞬間、胸に突き刺さる深い楔。
「花が萎れてまう」
「そ、んな……」
振り返った彼の目線の先にあるもの、それにさえ掻き乱される。
「じゃあ遅く出て、早く帰って来れば。定休日に合わせます。大学だって1日休んだぐらい大丈夫ですから。ね?」
「そう、言うてくれるのんは嬉しいけど……やっぱあかん。注文してくれたお客さん達待たせるんも、こいつらケアしてやれないのも、俺にとっては許されんことや」
追い縋る提案を一蹴し、キッパリと言い切った瞳。
あぁ、プロ意識に徹する姿にかつて想いを寄せたくせに、こんな時には歯軋りするほど疎ましい。どれだけ言葉を尽くしてみても決して優先度を落とさない安曇に、巧矢は己のリミットが崩壊する音を聞いた。
結局。
自分は二の次なのだ。彼には花があればそれでいいのだ。どんなにワガママを言っているか分かってる。でも、それでも、会えなくて寂しかったと言ってくれたらこんな気持ちにはならなかったのに。
「俺……安曇さんに会えなくて寂しかった」
「……巧矢?」
絞り出した声、動機だけが早くなってゆく。
「安曇さんと会えない時間を埋めたかった。もっと一緒にいたいと思ってた」
何もかもじゃなくていい。ほんのひとかけらでいい。少しずつ相手を知って、自分を知ってもらって、いつかもっと近付きたいと、そう願っていた。
「だけど……そう思うのは、俺だけなんだね」
「ちょ、おまえ……何言うて……」
戸惑った表情にハッとする。自暴自棄をこの人に押し付けようとしている自分に気付き、巧矢は力任せに拳を握った。
「……ごめん。俺凄い嫌なヤツだ。こんなこと言うつもりじゃなかったのに」
「巧矢、落ち着けって」
「安曇さん……好き。大好き。好き過ぎてもうどうしていいのか分かんないよ」
「巧矢」
「ごめんなさい」
「……巧矢っ」
混乱したまま、表に飛び出す。追い掛ける声を振り切るために走った。走った。走り続けた。
そこに残るのは、後悔だけ。
----------
あああ…(涙)この回、プロットして分かってても書くの嫌でした……。
いつもハイテンションで押しまくる巧矢も、好きだから不安になるんです。
お気に召しましたら「BL小説」バナーをクリックしていただけると嬉しいです♪↓
seasons #45 に続く
- | HOME |