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 2008年07月 

faith #17 

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 室内に足を踏み入れた途端、ひんやりとした感触に身を竦ませる。先程までとは打って変わった静かな空間に、訪問者は息をするのも忘れて周囲を見回した。
「……凄い……」
 高い天井に施された彫刻は、数種類のタイルを組み合わせ蜘蛛の巣状のモチーフを立体的に表現したムカルナス形式。東方で発祥し、発展したものが、その後伝わったのだという。夥しい数の立体装飾、植物模様。まるで古い寺院を思わせる荘厳な雰囲気に、セージは知らず背筋が伸びるのを感じた。
「どれくらいの年月が掛かったんだろうね……」
「きっと、気の遠くなるほどの長い時間を要したでしょう。私は宮殿のどこを見ても、細やかな手仕事を施した職人達の想いを感じずにはいられません」
「……うん、本当だね」
 ゆっくりと室内を横断し、再び窓際へと身を寄せる。幾分陰ってきたとはいえアーチ状に刳り抜かれた外の景色はまだ明るく、床に零れ落ちる陽光によってタイルが綺麗に浮かび上がっていた。
「これも、手作り?」
「えぇ。宮殿内に敷き詰められたタイルすべて───。あぁ、セージ殿、これを」
「ん?」
 指差された方に目を向けると、更に促すようにガネーシャの手が腰を抱く。密着した身体にさして違和感を覚えなかったのは随分と心を許したからか、それとも薄暗い室内のせいか。
「タイルの形はひとつではないのですよ。丸いもの、四角いもの、また複数の線を組み合わせて独自の形を作っているのです」
「あ、言われてみれば……八角形?」
 指先で輪郭をなぞりながらセージは手元に夢中になる。傍らのオッドアイが自分を見つめていることなど意にも介さず。
「こうして互いにぴったりと敷き詰めることが出来るのも、精巧な作りの賜です」
「これこそ凄いよねぇ、俺がやったら絶対ズレるもん」
 自信ある、と言い切るセージに可笑しそうに笑うと、ガネーシャは再び腰を上げた。
「それならばこちらが適任では?」
 指差したのは壁に描かれたタイルアート。同じタイルでも一枚一枚の大きさも形もすべて異なっているというものである。逆を言えば填め込むことが出来るのはたった一カ所で、厳密な精度が要求される八角形とは正反対。
「そうそう、こーいう方が向いてるかも。……って、ガネーシャ、俺のこと凄い大雑把なヤツって思ってない?」
「そんなことありませんよ」
「ウソだ、笑ってんじゃんー」
「いえいえ、本当に……」
 と言いながら笑いを噛み殺しているから知れたもの。むぅ、と唇を尖らせるセージの隣でなおも笑みを浮かべつつ、ガネーシャは両目を細めて見せた。

「あなたは本当に……かわいらしい方ですね」

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どんどん距離が縮まりつつあるこのふたり、なんだかいい雰囲気です。
とはいえ忘れたままにもいかないので、次回はシヴァの話を少々。

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faith #18 に続く

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連載中の「faith」シリーズでは
登場人物・国の名前をお香に由来してまして、
キャラの性格も微妙に香りの印象に因っています。
(このへんは「あらすじ」でご紹介したとおり)

で、せっかく書いてるなら集めてみようと
全員分のインセンスを取り寄せてみました。
それがコチラ↓


左から、ラーマ、アルーダ、ガネーシャ、セージ、シヴァ、ロータス。

一番初めに試すなら何はなくとも第一王子だろうということで
シヴァを焚いてみたんですが……なんつーか、クセの強い香り(@_@)
本編での扱いに不満タラタラの王子様に仕返しされた気分。

アルーダやロータスは絶対優しい香りだと思うんだ。
ガネーシャはどうかな〜。ラーマは穏やかだと思う。
んでもって、セージはすんごい甘いといいよ!(萌)

ちなみに買ったのは全部「HEM」です。
http://www.shop-g.com/

毎日ひとつずつ焚く予定なので今から楽しみ(^-^)
面白いことがあればまたレポートしますね〜♪

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faith #16 

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「グラナダの丘に広大な城塞が築かれのは10世紀のことです───」
 ゆっくりと歩を進めながら前を行くガネーシャが口を開いた。
「丘陵の赤土と、その土で焼かれたレンガの色から "赤い城" と呼ばれてきました。もうだいぶ日に焼けてしまいましたが……」
 すっと伸ばした手の先、触れた煉瓦がひんやりと熱を奪う。日差しを受けて菫色に輝く瞳を伏せながら王子は振り返った。
「城の外はご存知ですか」
「……いえ、一度も出たことがない」
 ならば、と手近なアーチ型の窓から左を指差す。
「こちらが宮殿の西側、アルカサーバと呼ばれる軍事砦です。谷に面して守りを固め、都市と宮廷とを守っているのです」
 見下ろす丘陵は馬の背のように撓り、近付く者を寄せ付けない。
「東側には宮殿だけでなく、モスクや墓地、庭園などあらゆるものを備えます。……たとえば、ここのパティオのように」
「……パティオ?」
「中庭ですよ」
 そう言いながらさり気なく引き寄せられた肩。決して強引でなく、セージの歩調に合わせるようにエスコートしてくれる優しさ。
「宮殿にふたつ中庭があるのは……」
「うん、それは知ってる。手前と奥だよね」
「えぇ。ひとつが "天人花の中庭" と呼ばれ、王が公的謁見のために使用するもの。もうひとつが "獅子の中庭" と呼ばれ、王族の私的エリアとして存在します」
 僅かに首を傾げたのを見逃さず、ガネーシャは耳元で囁いた。
「ハレム……と言った方が分かりやすいですか」
「そ、そ、そ、そういうことなんだ……!」
 吹き込まれた温かい風と予想外の単語に心臓が跳ねる。
「ここは一般の家臣は立ち入ることさえ出来ません。両者は別々の宮殿のため軸線も通っていないのです」
「あ、でも、アルーダさんは?」
「あぁ、彼は特別です。ご意見番のような存在ですから」
 脳裏に焼き付いた怒り顔にふたり揃って吹き出して。
「……バレたらまた怒られちゃうかも」
「それなら秘密にいたしましょう」
 クスクス笑いながらふたりはパティオに足を踏み入れた。
 庭園中央、彫刻のライオンが支える水盤から噴水が上がり、回廊沿いの四方の部屋から流れ出た水路が合流する。これぞイスラム庭園の基本原理をなす、幾何学的な "四分庭園" である。
「凄いよね……これまで見たことない」
「お気に召していただけましたか」
 うん、と頷くと王子はそっと小首を傾げて笑った。
「よかった……。セージ殿、暑くありませんか。よければ中に移動しましょう」
「ん、助かるー」
 思わず本音を零して笑いを誘って。
 それはこちらに来て初めて、屈託なく笑った瞬間だった。

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この組み合わせだと途端にほのぼのになるから不思議!
ちょっと説明事項多いですが、背景固めのためお許しを〜(明日も…(^-^;))

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faith #17 に続く