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 2008年07月 

seasons #51 

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 慣れとは恐ろしいもの───。
 そんな言葉を口にしたのが巧矢の方だというのだから、その状況たるや推して知るべし。
 広いスタジオ、輝くライト、絶え間なくシャッターを切る音。そんな究極の状態で写真を撮られ続け、緊張感もマックスならキスの余韻で沸点も上昇、どこかでネジが外れたのだとしてもおかしくない。そんなこんなで一気にボーダーラインを越えた安曇は一気に逆ベクトルを目指して突き進んでいた。
 カラーの花束を雑に抱え遠くを見る目付きがイッている。陶酔し切った表情はもはや素人のそれではなく、どこか貫禄すら漂わせている。繰り出されるオーダーに次々応えているあたり、素質があるのかも知れないななんて渉でさえほくそ笑むほど。
 ゆえに。
「じゃあ次、キスシーン撮ってみようか」
 そんな、普段なら脱兎の如く逃げ出すであろうリクエストにも。
「おー、そろそろいっとこか」
「安曇さん!!!?」
 むしろ腰が引けたのは巧矢である。
「ちょっと、いいんスか。こういうの絶対ダメなくせに」
「えぇやん、巧矢。やろ」
 と言ってる唇まであと数センチ。シャツの襟元を引き寄せる、その仕草は反則だろう。
「うーん、いいねぇ。たくさん撮るから長くね」
「だそーだ」
「ちょ、安曇さ……んっ」
 制止も聞こえぬとばかり持っていたブーケを押し付けると、安曇は相手の肩に両腕を巻き付けた。そのまま引き、唇を重ねる。触れた瞬間電流が走るようなむず痒さに全身が泡だった。
 しっとりと感触を楽しんで、ペロリと舌先で味わって。僅かな隙間、口内の熱さに酔いしれて。
「……ん、」
 ちゅ、と小さな名残を残してふたつの個体に戻る頃、安曇はようやく我に返り、巧矢は無駄に戦闘態勢を整えていた。もはや人目なんて関係ないとばかり擦り寄ったところをカウンターで返され、まさに不幸としかいいようのないタイミングのズレを実感する今日この頃。取り敢えずこれだけはとブーケを渡したところで、前触れなくスタジオのドアが開いた。
「お邪魔するわよー」
 姿は見えないが声だけですぐに分かる。
「コウさん!」
「たくちゃんお疲れー。どーお、撮られてるー?」
「もー聞いてくださいよ! 凄いことになってんスよ!」
 ようやく衝立の向こうから、ひょこ、と顔を覗かせたコウは、だが勢い込んで喋ろうとする輩の斜め後ろ、目を潤ませる美形男子の存在をコンマ0.1秒で認識し、一気にテンションを引き上げた。
「きゃー、"安曇さん"!? 超イケメン!」
 1回会ったことあるはずなのに雰囲気が違ってびっくりしちゃった、とトキメキで胸を押さえる訪問者に対し、早くも持病が出たかと伴侶は軽い頭痛を覚えつつ。
「こーうーすーけー」
「あらヤダ、ごめんなさい。アタシったら正直で〜」
 悪びれもせずシナを作ってみせるものだから、その場にいた全員がドッと笑った。無論、そんな和やかな瞬間をカメラマンが見逃すわけがない。ファインダー越し、自らの恋人が自己紹介を始めたのを微笑ましく見守りつつ、ついでにそっちも撮ったりして。
「改めまして、コウですー。いつも綺麗なお花届けていただけて嬉しいです♪」
「うちこそ、いつもおおきに。巧矢から聞いてますよ」
 軽く振り返った相方への視線につられたコウは、目敏く胸ポケットのアレンジをチェック。
「その花はもしかして!!?」
「もっちろんブーケとブートニアッスよ!」
「やーん。ホントに? 嬉しい〜〜〜!」
 胸の前で手を組むなり身悶えし始めた相方に対し、そろそろ切り上げるべしとの第六感を働かせた渉は休憩時間の終了を告げる。
「コウ、喜ぶのはいいけど脇でやってね」
「なによ、冷たいんだから〜〜」
 ツンと唇を尖らせつつ、ニッと笑ってみせたりして。器用な百面相を拝みつつ、撮影会後半戦がスタートする。
 無論、安曇が再び盛大に照れたことは言うまでもない。

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はーい、授業参観ならぬバカップル参観(そんなのあるなら素で行きたい)
安曇ちゃんは突き抜けると無敵ですが必ずリセットします、という凡例です(笑)

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seasons #52 に続く