faith #48
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多くの国がそうであるように、国の慶事に恩赦は付き物。
ラーマでもそれは例外ではなく、国王の即位と結婚により特別の赦しを得た罪人の中にはかつてその地位を争った弟のガネーシャも含まれていた。
静かに己を見つめ直したその瞳は静けさに満ち、思慮深さを湛えている。オッドアイを隠す意味から伸ばしていた長い髪を切り落とし、王への忠誠としてそれを捧げた。
迷いを払拭したようにスッキリとした表情を見せる彼は、これまでの思い出を振り切るように遠く旅に出るのだと言う。足早に王宮を突っ切る後ろ姿は別人のよう。それを夢中で追う余り、名を呼び止める頃になって初めてシヴァが付いて来ていないことに気が付いた。……それが彼なりの思い遣り、最後の時間を独占させてやるというのだろう。
「……随分、急だね」
改めて向かい合うと言葉が出ない。笑みが眩しいほど泣きたくなる。
「どこへ行くの?」
「まだ決めてはいませんが……広い世界を見て来ようと思います」
心配そうに眉を寄せるセージに目を細め、ガネーシャは優しい声音で続けた。
「必ず戻ります。その時にはあなたのような素晴らしい伴侶を連れて」
「そっか。……じゃあ、楽しみにしてる」
未だ心は喪失感を訴えているけれど、心待ちに出来ることがあるなら。ようやく小さな笑みを浮かべ、セージは小さな袋を差し出した。
「これ、俺の香。浄化作用があるから、疲れた時に焚いて」
ついこの間シヴァに教わった、"セージ" という名のインセンス。自分の名前が香と同じ音を持っていたなんて知らなかったけれど、それがこの世界に来るキッカケになったのかも知れないと思うと不思議な気がした。
心を浄化させ、癒す力が宿るとされる "セージ"。伴えない旅だからこそ、彼の心の傷が、そして身体の痛みが、少しでも和らげばとただそれだけを願った。
「いただいて、よいのですか……」
「ガネーシャはもう俺の家族だもん」
だから大事にしたいんだよ、と続ける声に唇を引き結んだ王子は、即座にその足下に跪いた。
「ありがたき幸せ」
そして手の甲に忠誠のキスを贈る。騎士のように強く優しく潔く、その瞳はどこまでも澄んで。
「行って参ります」
馬の蹄の音を響かせ遠離る、その後ろ姿に向けて最後のエールを。
「ガネッシュ!」
その名を呼ぶと、振り向いた人は花が咲いたようにパッと笑った。
「幸運を!」
あぁ、その笑顔を忘れない。
馬上で一礼した王子は前を向くと、振り返らずに道を行った。
彼だけが行ける、彼だけの道を。
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ガネーシャは生まれ変わるために旅に出て、それを見送るのは愛しい人で、
そのために敢えてシヴァは見送らないという三者三様の結末です。
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faith #49 に続く
faith #47
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「……よいのですね」
駆け込んで来たセージを前に、術士はすべてを悟った顔で指輪を受け取った。
「初めに申し上げておきましょう。……一度消してしまった記憶は決して元には戻りませぬ。溶けてしまった氷のように、あなた様と関わったすべての者からその記憶が抹消される……つまり、存在自体がなくなるのです」
ゴクリ、喉が引き攣るように痛みを訴える。
「あの……最後にもう一度、会えないかな……」
「それはやめておくべきです」
追い縋るなどお見通しとばかり首を振ったロータスは、諭すように静かに口を開いた。
「あなた様の波長は徐々にシンクロを弱めています。もはや異なる世界を行き来するだけの力に乏しい……出来たとしても、恐らく次が最後でしょう」
「……てことは、行ったが最後……?」
「こちらには、もう二度と」
キッパリと言い切る声がどこか遠い。気付いた時には既にギリギリの崖の上に立っていたことを改めて突き付けられる思いだった。
「ひとつだけ、確認させて。みんなの記憶から俺を消した後、前みたいに不意に戻ってしまう可能性は?」
「ご安心召されませ。記憶を消すと同時に波長は完全に遮断されます」
つまり、既に赤の他人となった者の前に姿を現すことはない。不幸な混乱を招くことはないのだ。
「覚悟を決められたら、こちらにお座りください」
そう言って奥の間を指すのを見遣り、セージはゆっくりと息を吐く。心の整理を付けるのにそう長い時間は必要なかった。
「……分かった」
口元を引き結び、足を向けようとした瞬間───それを引き留める強い力。
「……シヴァ……」
「セージ、おまえ、いいのか」
後ろ姿を目にするなり部屋に飛び込んで来た王は、術士の掌に乗る指輪に一瞬で事を理解した。
「おまえには捨てられないものがたくさんあるんじゃなかったのか」
「うん。今でも、凄く大切」
「それならどうして……」
言い淀む相手にゆっくりと目を細めたセージは、穏やかな声で言葉を紡ぐ。
「ねぇシヴァ。俺は、ここに来れて、シヴァと出会えて、本当によかったと思ってるよ。初めは戸惑ったし、帰りたいってばかり思ってたけど……でも今は違う」
一点の曇りもない笑顔で。
「俺は、ここにいたい」
「セージ…」
「ガネーシャが言ってた。何かを得ようとするなら、対等の代価が必要だって。みんなから俺の記憶を消すためにガネーシャはお母さんの形見の指輪を俺にくれた。だから俺は、ここにいるために、シヴァと一緒に生きるために、これまでの過去を差し出すんだ」
それが俺にとって大切なものだから、と結ぶ声ごと引き寄せられる。抱き締める腕の力はただひたすら強く、強く、そして少しだけ震えていた。
「セージ…………」
何度も優しく背を撫でて。これじゃどっちがリスキーなんだよと苦笑を漏らしながら眉を寄せる相手を慰める。そうしてゆっくり呼吸を整え、ようやく落ち着いた頃合いを見計らってセージはロータスの前に跪いた。
徐々に室内に満ちてくる光。全身を覆う光の粒子はキラキラと瞬きながらすべてを包み込んでゆく。暖かいような、眠いような、ぼんやりとした世界にひとり光の渦を纏っている。やがて霧が晴れるようにうっすらと視界を取り戻した後は少し気怠い感じが残ったが、それさえまるで夢を見ているような不思議な感覚だった。
見上げれば傍らに愛しい人。自分のために胸を痛めてくれているのが分かるから、セージは安心させるように笑みを浮かべた。
「これで "実家に帰らせていただきます" って言えなくなっちゃったんだからな」
軽口を叩く気丈な花嫁にようやくシヴァはいつものペースを取り戻し。
「そんなこと、言う暇もないほど愛してやる」
強気の応戦で締め括る。
満天の星が瞬く夜、熱いくちづけで永遠を誓った。
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世界の違うふたりはどうなるんだーというのが気になる点だったと思いますが
本格的なお輿入れで強制落着となりました。シヴァ愛されてるなぁ……。
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faith #48 に続く
message
バタバタですみませんが、取り急ぎお知らせ!
8/30-31 にかけて引越しします。
(ブログじゃなくて、私自身が……^^;)
今、文字通り山のような段ボールに囲まれて書いてます。
で、お知らせしておかないといけないのはコメントレス。
明日、明後日の更新は予約してるので大丈夫ですが、
コメントへのお返事は、上記のバタバタにより
最悪 9/1 までお待たせしてしまうかも知れません。
ホントにごめんなさいです m(_ _)m
それでも反応いただけると頑張れますので、
何かしらメッセージ残してもらえると嬉しいです♪
ではでは。
これから夜通しで再び梱包作業に勤しみます!
……お、終わるんか、これホンマに……(;´Д`)ハァハァハァ
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