sign #08 

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「……あ、そういえば」
 お揃いのグラスで小さく乾杯をした後、客が途絶えたのをいいことにのんびり差し向かいで飲んでいたコウは、カメラマンの足下を見遣り手を止めた。
「凄い荷物ねぇ。撮影用?」
「あぁ、ちょっと大掛かりな仕事でね」
 カウンターの下からはいつものカメラケースの2倍はありそうなボックスに加え、小振りなジュラルミンケースとボストンバックが積まれている。一体どうしたのと目で問う相手に間を置くと、渉は眉を下げつつ言葉を続けた。
「今夜はホテルに泊って明日の朝イチで飛行機に乗るんだ」
「どこへ?」
「ハワイ。プロモーションでね。1週間ばかり行って来るよ」
「んまっ いいわねぇ。メチャメチャリゾートじゃない」
 ズルイわぁと唇を尖らせて見せる彼の屈託ない笑顔。ほんの僅か、もしかしたら本人さえ気付いていないかも知れないけれど、自分以外の人間に向けるものとは柔らかさが違う。自意識過剰か思い込みか……今はまだ判断出来なかったけれど、渉には己の勘に自信があった。
「ふふ。アタシも一度でいいからグラビアとか飾ってみたかったのよね〜」
「へぇ、そうなんだ」
 だからこそ思い付いたアイディア。
「だって憧れるじゃない、モデルなんて」
「結構しんどいけど、いいのかい?」
 本質はファインダー越しに切り取れる。
「もっちろん。これでも体力には自信があります」
「それなら今度撮ってみようか」
 まるで社交辞令か何かのようにサラリと口にしたひとつの賭け。伸るか反るかの大博打は次のステージを用意して。
「これが僕の連絡先。プライベートナンバーだから、何かあったら掛けておいで」
「ありがと。……ね、渉、携帯貸して?」
 言われるまま取り出した二つ折りの端末を器用に操作すると、しばらくしてコウはアドレス帳の新規登録を終えて返した。
「トップシークレットだから、渉限定ね♪」
「おいおい、凄い扱いだな」
 手元の液晶を覗き込みながら渉の頬にも笑みが浮かぶ。と同時に、画面右上で深夜を告げるデジタル時計に小さく溜息を吐くと、カメラマンは席を立った。
「じゃあ、ハワイから帰ったらまた寄るから。覚えておいて」
「……うん。楽しみにしてる」
 そうして後ろ髪を引かれつつ店を出れば夏の夜空、大三角。
 一面の星空に言葉もなく、音もなく、熱もなく。ただ加速してゆくスピードだけを感じていた。

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当事者と第三者の視点や時間の流れの感覚がどう違うかについて
書きたかったので敢えてふたりを離してみました。
次回は渉のアシスタント白崎くんと ships オーナー梶原さん登場の予定です。

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sign #09 に続く

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