sign #09 

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 近付くほど遠く感じるのが恋なのなら、遠離るほど近く思えるのは何だろう。

 青い空、青い海。どこまでも続く遠浅のラグーン。
 肌を擦り抜ける風は優しく、カラリと晴れて心まで浮き立たせる。ビーチの白い砂を踏みしめながら、渉はどこまでも続く浜辺を前に空を見上げた。
 あぁ、なんていい天気。
 きっと今日本は蒸し暑い真夏日なんだろうな、そんなことを考えながら束の間の休憩を取る。そもそもがタイトなスケジュールの撮影隊は、モデルの体調最優先に強行軍を強いられていた。朝からずっとレンズの向こうを睨んでいた視界はやや霞み、太陽の光が強烈に飛び込んでくる。参ったなと眉を顰め掛けたその時、差し出されたのは冷たいおしぼりだった。
「お疲れさまッス。顔拭いてください、気持ちいいッスよ」
「あぁ、ありがとう」
 ニッと笑ってそれを手渡すアシスタントの白崎は、まだ3日目だというのにすっかり日に焼け、常夏の楽園を謳歌している。
「いやー、いいッスねぇ、ハワイ!」
「ハハ、楽しんでるなぁ。昨日だって遅くまでフィルム整理やってたのに」
「それとこれとは別ですから。だって海見てくださいよー、こんな綺麗なのに泳がないなんてあり得ないでしょ?」
「じゃあ僕は、君のオフショットでも撮ろうかな」
「いえいえ、それは遠慮しときマス。吉岡さん疲れてんのに、これ以上カメラ構えさせたら俺が殺されますって」
 そう言ってカラカラと笑うから、渉はそれ以上の追従をせずに波に目を戻した。
「確かに、凄く綺麗だよね」
「海も空も山も全部、一体になってるのがハワイのいいトコなんスよね」
 それは本当に広く果てしなく、今自分が地球そのものと対峙していることを実感させてくれる。だからこそ。
「このまま全部、写真に出来たらいいのに……」
 その片鱗だけでも持って帰れたらいいのに。あの子のところへ。
「吉岡さん…?」
 遠くを見つめる師匠の横顔を見つめ、白崎はふと思い当たった。
「見せたい人がいるんスね」
「……うん?」
「全部持って帰りたいんでしょう、吉岡さん」
「ふふ。分かるかい」
 隠すことをせず、誤魔化すこともせず。ただ穏やかに笑うカメラマンが年上のくせにかわいらしくて、アシスタントは苦笑するしかなかった。
「もー、欲張り過ぎッスよ。……第一、全部写真に入れちゃったら面白くないでしょ」
「お。さすが白崎くん、いいこと言う」
 四角く切り取れるものなど限られている。その枠に自然を収めようとすること自体冒険心が削がれてしまうのだと。渉は頻りに頷くと、嬉しくなって頬を緩めた。
「切り取ったその外側を、見て欲しいよね」
「まーた、そーいうマニアックなこと言う」
 ニヤリと口端を持ち上げると、心中察したアシスタントが同じ顔をする。
「吉岡さんがそこまで言うってことは、それを嗅ぎ分けてくれる人がいるから、でしょうけど」
 胸に浮かんだ面影に、渉はそっと笑みを向け。
「あぁ、そうかも知れないな」
 彼になら、空気も音も風の匂いも、全部伝えられそうな気がした。きっと切れ長の目をしたバーテンダーは興味に瞳を閃かせ、身を乗り出して話を聞いてくれるだろう。そう思うだけでカメラを持つ手にも力が漲ってくるから現金なもの。でも、それだけ彼が身近な存在になりつつあるのだと改めて実感した。
「……あ、休憩終わりみたいッスよ」
「あぁ、行こうか」
 ふたり揃って立ち上がり、再びプロの顔になる。
 この情熱さえ届けと、思った。

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1話にコウサイドも入れたかったのに全然無理でした(>_<)
というわけでコウちゃんはまた明日ー。むー。

ところで週間INポイントがまたまた1000越えしてました。
いつもバナークリックありがとうございます。何かお礼を考えときますね(^-^)

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sign #10 に続く

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