sign #21 

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 それからしばらくというもの、渉は敢えて過密スケジュールをこなすようになっていた。
 理由は至ってシンプルで、どんなに忘れようとしてもコウのことを思い、ships に足を向けてしまいそうになる。ならば無理矢理にでも断ってしまえと物理的解決を図ったのだ。
 それはまるで空白の日々。
 砂を噛むような、という表現はこういう時に使うのかと、ひとり昼夜兼用の味気ない夜食を掻き込みながら思ったりする。こんな時に話し相手になってくれるアシスタントの白崎もおらず、ひとり黙々と箸を運びながら、もう一度溜息を吐く。時間が解決してくれるのは後どれぐらい先の話なのか───考えれば考えるほど傷跡が広がってゆくような気がして渉はそっと首を振った。
 会いたい。
 そう思い焦がれるほど自分は彼を欲していたのだと、ようやく理解する。会って、話をして、謝って、それから……。
「何を、今更……」
 言うべき言葉が見つからない。顔を合わせて話せることなど、何一つ思い付きはしなかった。
「……重傷だな」
 この気持ちを知っている。もう随分長いこと自覚することもなかった感情。恋の病。こんな時に気付くなんて。
 でも、だからこそ悟る。過去の恋愛においてトラウマを背負い、自分の恋愛に臆病になっているコウにとって、自分がいい存在とはいえないことを。
 会えばきっと、触れたいと思う。
 触れたらきっと、欲しいと思う。
 欲しいと思えばキリがない。際限なく、すべてを手に入れたいと願うだろう。
「それじゃダメだ」
 彼を追い詰めることにしかならない。自分は彼を守りたい、受け入れたい、受け止めたいのだ。彼を安心させ、笑わせ、優しくしてやりたいのだ。苦しめてはいけない。悲しませてはいけない。だからこの気持ちは、隠さなければならない。
 自戒をし、渉はそっと目を細める。切なさで胸が張り裂けそうだった。
「きっと……これは罰なんだな」
 失恋の思い出が蘇った彼の痛みに比べたら、これは傷にさえならないのだろう。だからどれだけ痛くても平気だと。
「コウ…」
 名を呼ぶほどに胸が鳴る。どれだけ想い募るものかを思い知る。
 たとえもう近付けなくても。たとえもう二度と会えなくても。どうか君だけは幸せになりますようにと心から祈った。

 そして願わくばもう一度、君の笑顔を見たかった───

 静かに目を閉じ、己の心に整理を付けようとした、その時。
「……っ」
 ポケットの携帯電話がメール受信を知らせる。第六感は外れない。コウだった。
「まさか……」
 何かあったのかと急いで開くと文章はなく、代わりに一枚の添付写真。液晶画面に映し出されたそれを見てカメラマンは一瞬言葉を失い、手近にあった財布を掴むと慌ててレストランを飛び出した。

 それは、いつかの観覧車だった。

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大人っていうのは案外、不器用の代名詞なのかも知れませんねぇ。
明日はいよいよな展開です。乞うご期待!

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sign #22 に続く

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