sign #24 

←前話へ

 月の明るい夜。
 紹介という名の彼氏自慢大会からの帰り道、肩を並べて歩くサラリーマンふたりは毒気に当てられ些かお疲れ気味だった。
「いやー……凄かったですよね……」
「あぁ。久しぶりに随分飲んだ」
「ノロケ過ぎですよね、大体にして」
「幸せなんだろう、いいじゃないか」
 確かにやたら気合い入ってましたもんねぇ、と眉を寄せながら苦笑を浮かべる。けれど、それさえもみるみるうちに本笑いになってしまうあたり、幸せな親友の存在は大きいらしい。
「安里。ニヤけ過ぎだぞ」
「だってー。コウちゃんは俺にとって大事な仲間なんですもん。やっぱり自分のことみたいに嬉しいですよ」
 どれだけこの報告を待ち侘びたか!と指折り数年数えるのを見遣り、水瀬はそっと眉を下げた。
「そうみたいだな」
 柔らかな笑み。この人の独特の顔。
 会社では凡そ誰にも見せたことなどないだろう、その柔和な表情を見上げ、改めて青年は胸をトキメかせる。自分と一緒にいるからこそなんだろうなぁ、なんて、どこかの浮かれカップルに感染した成果を遺憾なく発揮し始めた頃、唐突なセリフで強制的に引き戻された。それはもう、有無を言わさず。
「コウさんが港で、渉さんが船だな」
「……は?」
 思わず目を見開く。まるで高度経済成長期を彷彿とさせる物言いに固まったとして、今なら許されるだろう。なにせ21世紀なのだ。
「水瀬さん、言うことが古過ぎますっ」
 見上げた先、余程複雑な表情をしていたのだろう、見返したエリート様は人の顔を見て笑うという暴挙に出た。
「ちょ、ちょっと!」
「ハハ、すまない。……確かに、言っておいてなんだが、凄いな……」
 なおも笑いが止まらないのか、いつになく上機嫌な水瀬は口元を抑える。
「まぁ、表現はさておいて、一理ありますよね。渉さん撮影であちこち飛び回るって言ってましたし、コウちゃんもあれでプロ意識バリバリな人だから、店放ってまで付いてったりはしないだろうし……」
 要は、気ままに会うのもままならないカップルなのだ。
「我慢出来るかなぁ、コウちゃん」
 だが親友の思惑さえ包み込むように、水瀬の腕が肩を引き寄せた。
「会えない時間も意味がある。大丈夫だ」
「……なんだかやけに実感が籠もった言葉ですけど」
「遠距離が決定した瞬間がスタートラインだった俺達よりはいいだろう」
「またまた。栄転したのにあっという間に本社戻るために画策した人が何言ってるんですか」
 前代未聞だって部長が散々言ってましたよ、とくすくす笑いながら付け加える。……そう、水瀬トンボ返りの一件については社内でちょっとした伝説とさえなったのだ。
「不可能じゃないさ」
「それは水瀬さんだからですよ」
「一緒にいるための努力なら、俺は惜しまないつもりだ」
「水瀬さん……」
 駅に向かって歩いていて。そこには何気ない景色が広がっていて。話の流れだけを追っていれば、それはあっという間に流れて行った言葉かも知れないのだけれど。

 ジン、と熱くなる胸がそれを許さない。
 弓形を描く唇を抑えるのは出来そうにない。

「そういう真直ぐなところ、大好きです」
「これは安里に教わったんだ。見習わなければと思ってな」
「そうでしたっけ」
「よく突っかかって来たじゃないか、俺に。最初の頃はキャンキャンと」
「ああああれはもう、忘れて! 忘れてくださいっ」
 途端、形勢逆転とばかり頬に朱を散らす恋人を見下ろしながら、エリート様が高らかに笑う。そうしてギュッと抱き寄せて。そのまま腰を抱き締めて。
「今夜はしっかり付き合ってもらうぞ」
「……え? えぇえ!?」
 くるりと踵を返す水瀬に連れ去られながら、終わらない夜が幕を開けた。

----------
久しぶりに水瀬&安里カップル書きましたが、忘れてるもんですね…(^-^;)
[ships]シリーズがお好きと言ってくださった方にはゴメンナサイです。
にしても、一緒に住んでるくせして再び夜の街に繰り出すおふたり、
今夜はどこにお泊まりなのかしら……舞台が新宿だといろいろ便利(笑)

お気に召しましたら「BL小説」バナーをクリックしていただけると嬉しいです♪↓

sign #25 に続く

コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://tkame.blog109.fc2.com/tb.php/250-270cc1bd