sign #31
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意識を失っていたのだと気付いたのは、既に陽が高く昇ってからだった。
「……あ、」
覚醒したてのぼんやりとした頭を軽く振り、身を起こす。と、途端身の内から痺れるような余韻が昨夜の情事を物語る。胸を突く甘やかな疼きがじんわりと広がるのが分かった。
傍らで、猫のようにシーツにくるまって眠る恋人を起こさぬよう、キッチンに立ってペットボトルを煽る。ひんやりとした足裏の感触と相俟って、一気に目が覚めた。
「……渉」
「あぁ、起きたか。おはよう」
「んー。おはよー」
まだ眠いのか、ふにゃ、とした顔で笑ってみせるから、普段のギャップに家主は目を細めずにはいられない。このかわいい恋人を昨夜手に入れたのだ───その身も、心も。
「少し飲むといい」
ミネラルウォーターを手渡し、再びベッドに戻る。コクリと音を立てて飲み下す細い腰に腕を回すと、敏感な身体はピクリと反応を返して見せた。
「やっ コラ」
「くすぐったい? それとも……感じる?」
「も、渉、別人」
「そうかな。幸助が魅力的だからだよ」
僕は普段は無口な方だし。
そう付け加えると何が可笑しかったのか、相方の爆笑を誘った。
「嘘過ぎるー。あんだけ口説きまくったのに?」
「幸助といるとね、たくさん言いたくなるんだよ。その分かわいい反応が返ってくるから」
「……それはもういいです」
「そう? じゃあ、不言実行がいい?」
ならば実力行使とばかり耳朶を甘噛みすれば、途端全身全霊を込めた引き剥がしに遭う。
「ダダダダメに決まってんでしょっ これ以上溶けたら原型なくなっちゃうっ」
「……原型?」
何のことだ、と一瞬眉を寄せた渉だったが、彼の言わんとしていることを察し破顔した。
「そんなに悦かったんだ?」
「あーもー、その顔ダメ。そーいう得意気な渉見慣れてないもんっ」
しかも無駄にカッコイイから余計ドキドキすんじゃん!
……なんて。無駄にとはどういうことだと突っ込みたいのは関の山なれど、後に続く方が彼の本音なのだと分かっているからこそ、今やすっかり朱の散った頬に音を立ててキスを贈る。
「かわいいね、幸助は。ますます好きになった」
「〜〜〜〜っ」
力一杯眉を寄せる表情に苦笑し、そっと身体を引き寄せて。押し包むように割り開いた唇から舌を差し入れ、甘い唾液を絡め取る。こうしていると昨日のことを思い出してしまいそうで、そのまま求めてしまいそうで、残っている理性を掻き集め渉はようやく身体を離した。
「……このまま押し倒されちゃうかと思った」
「したかったのは山々だったんだけど」
「我慢したんだ?」
「君に負担を掛けたくないからね」
あれだけのことをして痛みが残らぬはずがない。傷になっていないか、そればかりを心配していた身としては、欲望の赴くまま求め続けることなど出来なかった。そう言うと、コウは嬉しそうに抱き付いて来た。
「渉、大好き!」
「うん?」
「そうやって気遣ってくれるトコ、好き」
「それはよかった。治ったらまた、ね?」
「……そうやって意味深に笑う顔は、エロいからダメ」
「ダメ?」
「……うー。ダメ、でも……ないけど……」
「ふふ。それはそれは」
「なんか負けた気がして悔しい〜」
地団駄を踏む恋人をギュッと抱き寄せ、髪にキスを。ひとしきりはしゃぎ回ると大人しくなったその人は、ぽふ、と音を立てて枕に舞い戻った。
「……ね、渉はアタシのどこが好き?」
上目遣いの視線にかわいい悪魔の笑みを浮かべて。
「真直ぐなところかな。一生懸命で、垣根がなくて、でも不器用で、寂しがり屋のところ」
「それっていいの?」
「勿論。……ボーダーラインを築いてた頃の君と出会って、それが凄く気になって……。僕の前では素顔でいて欲しい、僕に守らせて欲しいって思ったよ」
「そう、なんだ……」
比類なき浸透圧。だからこそ心を許せたけれど、今思えばとっくに惹かれていたからかも知れない。
「幸助は?」
「……ふふ。全部」
「コラ、それはズルイだろう」
「だって、優しいところも、包容力のあるところも、勿論外見だって大好きよ」
「容姿を褒められたのは初めてだな」
「アタシ、渉が初めてお店に来た時、実は見とれたんだから」
「そうなんだ? 結構放っておかれたと思うけど……」
「それは誰かさんがそーいうオーラを出してたからであって……」
「本当は、話したかった?」
「うん」
「じゃあ、僕と同じだ」
君の笑顔が忘れられなかった。続く言葉を待たず、コウが腰に擦り寄って来る。
「凄いラブラブ! カジーに追い出されるわけだ」
「ハハ、本当だね。……ねぇ幸助、これからもよろしく」
「こちらこそ」
身を屈めて何度目かも分からないキス。
それはふたりの誓いのくちづけ。
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おまえら好き好き言い過ぎじゃー!(涙)書いてるこっちが消耗する……。
とか何とか言いながら、次でラストです。最後までお付き合いください!
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sign #32 に続く
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