seasons #05 

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「あの、今更なんスけど……自己紹介してなかったですよね?」
 咄嗟に口を突いて出た言葉。
 あまりに予想外のセリフだったのか、店主はポカンとしたままジッと巧矢を見上げている。だがそんな訝る視線も何のその、配達ドライバーは言葉を続けた。
「俺、大野巧矢です。矢を射るのが巧いって書いて、巧矢。親が弓道やらせたかったみたいなんスよ」
 でも俺バスケの方が好きで……と次々繰り出される話にも、相変わらず返されるリアクションは極僅か。それでも舞い上がっている巧矢にとっては、目の前に安曇がいるだけで絶好調である。
「で、店長さんは安曇さん、ですよね。この前名刺いただいたんで。いい名前ッスね」
「別に……。女みたいだから名前で呼ばんといてくれる?」
 それまで静かに構えていた猫が首を擡げるように、相手は機敏な反応を見せた。切って捨てるような冷たい視線に思わず負けそうになったが、そこはグッと堪えて前傾姿勢。
「そんなことないですよ。綺麗じゃないスか」
「おとんが勝手に付けよった。昔の女の名前」
「……ゲッ」
 それは親として、いや男として、いっそ人としてどうなのよ!?
 思わず絶句した巧矢の、包み隠さぬ素直な反応に聞こえてきたのは笑い声。ハッとして見下ろすと、目の前の安曇が苦笑していた。
「おまえ、素直やなぁ。普通そこ流すトコやで」
「す、すいませ…っ いや、ちょっと、びっくりして……」
「なー、有り得へんやろ? 引くわ」
 渋い顔をすると眉間に見事に縦皺が寄り、目の力が強調される。漆黒の髪同様、黒目がちの瞳、それを縁取る睫、通った鼻筋、薄い唇。それら元々が整った顔立ちを形成していているだけに、怒った顔はまた格別───じゃなくて。
「じゃあ、いいと思える理由を見付ければいいんスよね? キッカケはどうあれ、店長さんに似合ってるし、俺は普通にいい名前だと思ったから」
 ね、と小首を傾げて見せると、きょとんとした安曇は一瞬の後に吹き出した。
「……おもろいヤツ」
「───っ!」
 無愛想、無頓着、ぶっきらぼうの三拍子揃った高嶺の花が人前で笑顔を見せるなど前代未聞に等しかったが、付き合いの浅い巧矢にはどれだけ凄いことなのか分からない。けれど、笑った顔がめちゃめちゃかわいいことだけは脳髄に永久保存として刻み込んだ。
 そうしてまたもお花畑に駆け出して行ったドライバーを引き戻したのは冷静な声。
「ところで時間いいのか、配達員」
「え? ……あ!」
 促されて時計を見るとなんと終業15分前。今から急いで帰ってもタイムカードを押すのはかなりギリギリである。名残惜しいこと甚だしいがここは潔く引かねばなるまい。
「すいません、俺、戻ります。また来ますから!」
「おお。気ィ付けてな」
 何度も振り返りつつ、自主的に後ろ髪引かれつつ、安曇の笑顔を瞼にオートリピートさせながら巧矢はいそいそと帰路に着いた。
 これぞ幸せ、恋の予感。

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さーて、このへんからいよいよ「安曇ちゃん、ペットを飼う」の巻(笑)
ストイックに「お預け」したままワンコ放置するといいよ!

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seasons #06 に続く

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