seasons #10
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口喧しいオヤジ共──本人達目の前にそんなことでも口走ろうもんなら半日は死人になりそうだが──から逃れ、巧矢は一直線に seasons に赴いた。
「こんちはー」
声を掛けると、店の奥でアレンジを作っていた店主が軽くこちらへ身体を向ける。
「……あぁ」
「安曇さん、荷物3つ来てますよ」
「ほな、奥入れといて」
「……は、はい」
まるで勝手知ったる何とやらの扱いに少々面食らう。
長い付き合いならいざ知らず、配達はまだ数えるほどしかしていない。彼が指す "奥" が正確にはどこなのかも分からない。だがそんなそっけない返事すら「クールでカッコイイ」と痺れるぐらいには色ボケである。
「……ありゃ」
意気揚々とバックヤードに足を踏み入れた巧矢を待っていたのは、狭い、暗い、足下が濡れているの3点セットであった。携えている荷物はおいそれと放置出来るサイズでもなく、さてどうしたものかと首を捻ったのと時を同じくして安曇が顔を覗かせた。
「どない?」
「あ、すいません。すぐ終わらせますから……」
「いや、俺も悪かった。置くとこないやんな」
どないしよかな……。
独白しつつ散らかる荷物をまとめ出すのを巧矢はただ箱を抱えて見守るばかりで。
「ほな、ここ置いとい……、わっ!」
振り返った瞬間足下が滑ったのか、バランスを崩した安曇を受け止めるため巧矢は咄嗟に腕を伸ばす。意識より早く身体が反応していた。
「……悪ィ」
「いえ。怪我ないスか」
我に返れば胸に抱き込んだような格好で。自然、至近距離で絡み合う視線に今更のように胸が高鳴った。
長い睫。大きな目。通った鼻筋。熟れた唇。
見れば見るほど吸い込まれそうで、思わずフラフラと顔を近付けたその時。
「あ、」
唐突に我に返った安曇に目を反らされ、縫い止められたように動きを止める。だが、暗闇でも分かるほどその頬に赤みが差していたと言ったら彼は怒るだろうか。
「……うわ」
そそくさと踵を返し出て行った背中を見つめつつ、巧矢はひたすらに放心していた。
「ヤバイ……」
そして第一声はそんな声。
「今キスしちゃいそうだった。ていうかしたかった。あと5cmでくっついたのに勿体ない……っ」
後悔の念に拳を握って身悶えながらも、その実、
「そんな恐れ多いこと想像するだけで罰当たり……!」
激しいヘタレぶりを披露する始末である。それ以前に彼の唇を頂戴するなど考えただけで鼻血が出そう。実際、鼻の奥が痛い。別の意味でもヤバイ。
膨らみ始めた煩悩を断ち切るべく荷物を片付けることに専念した巧矢は、しばらくしてすべて片付け終えると平静を装って表に戻った。
「終わりましたんで、じゃあ……」
そのまま帰ろうとしてふと、脳裏を過ぎったのはバックヤードの惨状。それを素早く天秤に掛け、勝算を見込むまで僅か1秒。
「安曇さん、あの荷物って在庫ですよね? ひとりで整理するの大変じゃないスか?」
「あー……。いつかやらなとは思てんねんけどなぁ……」
「じゃあ俺、手伝いますよ。店休みの日に呼んでもらえれば」
「そんな悪いし……」
「いえいえ。俺がやりたいだけですからっ」
思わず前傾姿勢で畳み込むのに案の定、安曇は不審な表情を浮かべている。しまった、と心の中で舌打ちすると、巧矢は改めて居住まいを正した。
「えーと、その、バックヤードが片付けられたら配達の時も楽ですしね?」
「あぁ、まぁ、せやな……。ほんなら、頼んでもえぇかな?」
「勿論! お任せください!」
満面の笑みで応えると、ホンの少し彼の表情が緩む。そんな些細な変化が嬉しかった。
「じゃあ、大野くんの連絡先、ここ書いといて」
差し出されたペンで携帯番号とアドレスをメモし、最後に名前だけを付け加える。
「安曇さん、俺も名前で呼ばしてもらってますから、俺のことも名前で呼んでくださいよ」
首を傾げるのに両手を振って誤魔化して。
「あ、変な意味じゃなく。なんていうか、俺が嬉しいんで」
「……巧矢、くん?」
「呼び捨てでいいスよ」
「巧矢」
───!!!
キュンと来過ぎて死ぬかと思った。渾身の力で踏ん張った巧矢だが、名前を呼ばれただけでこの威力ではこの先命の保証がない。でも彼になら本望、いっそ奪ってほしい、なんちゃって。
「じゃ、予定立ったら連絡ください。待ってますんで」
「おー。よろしくなー」
手を振ってくれるのを何度も振り返って確認しつつ、巧矢はこっそりガッツポーズを決める。
名付けて、オフの彼を独り占め作戦。
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さり気なくキス未遂事件。心臓バクバクし過ぎていつか止まるよ!?(笑)
でも独り占め作戦を敢行する辺り、ワンコの押しの強さは只者ではありません。
※アップ後1時間で本文加筆修正しました。
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seasons #11 に続く
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