guys #01
肌寒さを逸る心で押し包む春。
芽吹く草木の命を吸い上げるように桜の木々は花を付け、透き通る朝の空気をほんのり花霞に染めていた。まるで地上の雲のようにふわふわと風に靡く様は、これが夢なのではないかと錯覚させる。夢現を彷徨う曖昧な空気は春先の、ごく僅かな間だけに許された極上の砂糖菓子のようだった。
都内のビルが密集した場所であっても恩恵に預かることが出来る。今年もまた新しい期が巡って来たのだと通学途中にふと足を止めた少年は、数年前までのあどけなさを削いだしっかりとした顔付きで傍らの大木を見上げた。
フレンチグレーのシャツにストライプタイ。濃いグレーのズボンには黒の革靴を合わせ、漆黒のシングルブレザーが全体をカッチリとした印象にまとめ上げていた。胸のエンブレムはネクタイと同じく濃紺、臙脂、銀糸を組み合わせたもので、ペンと剣のデザインが体現するように文武両道の教育理念を表している。他校の間でも人気の高いこの制服は、進学校でありながらテニスや剣道部の活躍目覚ましく、また演劇部も活動が盛んなことで知られている男子校───都立常和(ときわ)高等学校のものだ。
中間一貫教育のここには附属の中学校があり、高校にはほぼ全員がエスカレータ式に持ち上がる。無論高校ともなればすべての者に門戸を開いているだけあって、実に各所の生徒達が狭き門を潜って入学を果たしていた。その偏差値たるや62とも65とも噂され、全体の7割近い編入組のお陰でハイレベルなランクを維持し続けている。満開の桜に目を細める片岡律誠(かたおか りっせい)もまた、外部受験組のひとりだった。
柔らかな猫毛の黒髪が朝の光を浴びてふんわりと光る。男らしく上がった黒眉、すっと通った鼻筋が端整な顔立ちを印象付けていた。その中で唯一予想を裏切る鳶色の瞳は、闇の中で光る琥珀のように透き通っていて、彼の人柄のよさまでも伝えようとしていた。
バス停から徒歩5分の距離をゆっくり歩く。
春先の水気を含んだ空気は嫌いではない。靴音を響かせて校門を潜る頃、耳慣れた声が自分を呼んだ。
「おはよ、委員長」
ポン、と肩を叩かれ振り返る。そこには昨日のホームルームで自分を委員長に推したクラスメイトが立っていた。
「あぁ、おはよう」
真新しい敬称に臆することなくにっこりと微笑み返す。
常和では、進学校にしては珍しく学年が持ち上がるごとにクラス替えがある。最終学年のものともなれば進路に応じたそれにはなるが、第2学年への進級にあたっては特に制約がない。従って、新しいクラスに配属された律誠達にとっても役員決めは必須であり、そこで見事選出され今に至るというわけだ。
真面目で責任感が強く、リーダーを絵に描いたようと評されること自体は嬉しいのだが、委員会や生徒会など、何かにつけ面倒事を押し付けられてしまうのが玉に瑕だった。尤も、それさえも万事こなしてしまうからこそ、万年睡眠不足に陥って幼馴染みに怒られる羽目になるのだが───。
そこまで考えてふと、委員長は口元を覆う。
「……あ、マズイな……」
またも厄介事を背負いこんだのかと呆れる顔が目に浮かんだ。とはいえ、引き受けたからにはやり遂げずにはいられない律誠の性格を嫌というほど熟知している彼は、長い長い溜息を吐いてそして言うのだろう、しょうがないなと。その苦笑する横顔は嫌いじゃなくて、むしろ自分を受け入れてくれるのが分かるからこそ、腐れ縁のような長い関係は今も粛々と続いている。
口元に当てた掌の下、くすりと弓形を描く唇。
急き立てるように予鈴が鳴り渡り、思考は忽ち中断される。朝のショートホームルームを10分後に控えた常和校内は俄に慌ただしさに包まれていった。
guys #02 に続く
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コメント
新作♪
お疲れ様です!
待っておりましたよ♪
やはり言葉選びがいいですねっ♪
情景が目に浮かびます。
優等生クンがどんな活躍をしてくれるのか
楽しみにしております。
では、また来ます!
失礼しました。
Re: 新作♪
伽羅 様
コメントありがとうございますv
お褒めの言葉凄く嬉しいです。
お待たせしました第2弾いよいよ始動です〜。
前回の反省を活かして、オリジナルBLらしさを(どんなの…)
ふんだんに盛り込みたいと思ってます!
是非是非、またいらしてくださいね♪
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