faith-2 #37
←前話へ
空はどこまでも高く広がっている。
それが、宮殿を出て最初に思ったことだった。
シダーからラーマに来た時も目にしていたはずのそれは今とまったく色が違う。記憶を辿っても目に映るのは灰色の雲ばかりだった。
この世に生を受け、酸いも甘いも経験していないうちから王族の末裔というだけで自由を奪われ、利害と隣り合わせの生活を強いられてきた。そしてなお、支配国であるラーマに養子に入るとなれば一層の束縛は容易に想像出来たし、欲深な大人達に囲まれて暮らすのかと暗澹たる気持ちだった自分には、空の青ささえ受け入れることが出来なかったのだ。
けれど、今なら見える。受け入れられる。世界のすべてを、そのあるがままに。
「……どうした?」
傍らを歩く、この人が在る限り。
「んーん、なんでも」
口が悪くて豪快で。
「あぁ、ホラ、布が捲れてる……」
とても優しい彼がいる限り。
「風が強くなると砂が入るからな。用心しとけよ」
「……ふふ。マージャ、世話焼きだよね」
「あー? 後で泣かれて面倒なのはゴメンだからな」
ポンポンと大きな掌で頭を撫でると、半歩先を歩いていたその人はぶっきらぼうに荷物を背負い直した。この旅で初めて知った、彼特有の照れ隠し。初めは怒っているのかと思ったが、頑なに表情を見せないその仕草は一度気付くと笑みを抑えられぬほどに可愛らしい。……なんて、本人に言ったが最後、どんな反撃に転じるか分からないので口が裂けても言えないが。
「───あ、綺麗……」
ふと目を上げた先、周囲に広がるパノラマにアンバーはしばし言葉を失う。王宮のどの窓からも見えない悠々とした広大な景色が眼下に広がっていた。
「世界はまだまだ、こんなもんじゃないぜ?」
「俺にも見れるかな」
そっと顔を上げれば、応えるようにニヤリと笑う。
「あぁ。最高の瞬間を見せてやる」
口端を持ち上げ、得意満面の笑みで。名高い悪党をさえ連想させるその顔は、これまで知る中で一番好きな表情。ワクワクするような、ドキドキするような、そんな予感を与えてくれる。それを今は自分だけが独り占めしているのかと思うと、途方もない喜びに目が眩んだ。
「うわ…」
自覚すればそれだけ、胸の鼓動が早くなる。こんなに近くにいたら聞こえてしまいそうで、悟られてしまいそうで、アンバーは思わず口を塞いだ。
「どうした、顔が赤いぞ」
「な、ななな、なんでもっ」
ない、と言おうとした声は、けれど音になる前に消える。熱が出たのかと前髪を掻き上げたマージャが、何気ない仕草で額同士を合わせたのだ。
「……たいしたことはなさそうだが……」
吐息が掛かるほどの距離。間近に見る唇に視線が吸い寄せられたとしても不可抗力だと言わせて欲しい。
「オイ、おまえ本当に大丈夫か」
大丈夫ならこんなことにはなっていない、と朱が散った頬を抑えながらアンバーは唇を噛む。口を開いたらそれこそ墓穴を掘ってしまいそうで、残された手段は首を振って誤魔化すということだけだった。
「……もう、困ったヤツだな」
苦笑したのが雰囲気で分かる。次の瞬間、引き寄せられたかと思うと、額に触れる、濡れた感触。
「……っ!」
「そんな顔で誘うな、こんな朝っぱらから」
何を、と言い返す前に流し目がすべてを封じ込める。
「お楽しみは夜までとっとけ」
それは綺麗なウィンク付きで。
「な…っ!?」
ホラ行くぞ、と先を行く背中を見遣り、ついでにワナワナと震える拳を握りつつ。
旅の恥は掻き捨てとか何とか。
「マージャのヘンタイー!!!」
取り敢えずは大声で叫んでみる、このあたりが精一杯である。
----------
さーて、始まりましたラブラブ編。得意気な兄貴が実に楽しそうですなー(笑)
ヒヨコはペースを握られ遊ばれながらも、今夜が勝負みたいです……!
お気に召しましたら「BL小説」バナーをクリックしていただけると嬉しいです♪↓
faith-2 #38 に続く
コメント
んぎゃ〜〜♪
もうもうもう〜〜!!!
アンバーカワユイのはもちろんですが、兄貴!
兄貴が可愛いのはなぜーーー?!
発狂しそうっすww (え?w
歳の差ものって、苦手なんですが、この2人は応援したくなっちゃいますね♪
あぁ〜もう、兄貴に悶えます( ´艸`)ムププ♪
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
うっひゃー!
柚子季さま>
びっくりッスよ!
兄貴が可愛いって言われた〜〜〜!!
おっさんなのに! 髭なのに!(そういえば)
いやいやいや、嬉しいです。記念です(笑)
年の差、苦手なんですか〜……ありゃ。
でもまぁ、たまにはこーいうのも摘んでみるか〜的に
見てってもらえると嬉しいですわん♪
兄貴萌えで、ひとつ(笑)
秘密コメントくださったOさま>
おおお、刷り込みって言葉がありましたわね!
そうそう、まさにインプリンティングです(笑)
お楽しみは……書いてみたら結構長くなりそうで
ひじょ〜〜〜に申し訳ないんですけれども、
ハァハァしながらお楽しみいただければ……っ。
(って、書いてる私もヘンタイな気がします…)
- | HOME |


コメントの投稿