guys #08
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街灯から伸びる影がどこまでも続いている。
ほんの僅かな光に群がるように、或いは秘密裏に漂う闇を暴くように、影は朧気に陰影に溶けてゆく。境目のあやふやなそれは、継ぎ接ぎのアスファルトに踊っていた。
午後10時にほど近い時間。
バスの行き交う表通りの賑やかさとは一転、1本路地に入ると途端にシンと水を打つ。静寂が痛いとすら感じる暗闇の中、大きな荷物を抱えた和哉は重い足を引きずるように帰路に就いていた。
練習が厳しいことで知られている常和のテニス部。ただでさえ試合前で練習量が増える今、レギュラー用の特別メニューまでこなしていれば、尋常ではないと評される体力を誇る自分でも限界は訪れる。その上、普通の生徒はバス通学を選ぶ距離をこうしてランニングで往復している。足元はフラ付いて時折縺れ、酷使し続けた気管からは息を吸うたびヒューという音が漏れた。
まるでエンドレスの試合のよう。
一向にカウントアップされないスクリーンを睨みながら、なおもラリーを続けているような錯覚に囚われる。足が絡んだのを境に立ち止まれば、俯いた顎先から汗が地面にポタポタと落ちた。
「……は、……っ」
上手く繋げない呼吸に目を閉じ、拳で汗を拭ってやり過ごす。激しく鳴り立てる心音は脳に直結しているようにドクドクと聴覚を支配した。軽い眩暈に襲われ、傍らのビルの壁に手を突いて何とか身体を支える。さすがに限度を超えただろうかと浅い呼吸を繰り返し、目を上げた先、見慣れた人物が行き過ぎるのを捉えた。
「……あれって……」
表通りに続く路地、一際明るい電飾の光に映し出されるのは、見間違いでないのなら噂の張本人。停学処分で自宅謹慎のはずだろうに、平日のこんな夜、家を抜け出して出歩くには理由がなさ過ぎる。黒いシャツに黒いパンツを纏う彼はさしずめ闇に紛れる黒猫のようで、周囲を見回した涼やかな目だけが夜を切り裂く三日月だった。
こちらに気付いた様子のない彼は、ほどなくして現れたふたりの男と共に連れ立って歩いて行く。親しげに言葉を交わすでなく、どちらかというと余所余所しい3人は友達同士と呼ぶには疑問が残った。雑踏の中に紛れてしまえば誰も気付かないであろうその僅かなささくれは、けれど彼を凝視している自分には大きな違和感となって留まり続ける。数歳上と見られるひとりが煙草を出して銜えるのを見遣りつつ、続く何気ない所作に和哉は思わず眉を潜めた。
「え……?」
火を求めていた彼に、ライターで点けてやったのは雪之だった。
その出所が彼のポケットでなければ、それは何気ない光景だったのに。
俄に生じた停学者の喫煙疑惑に和哉は動くことも出来ない。咽喉を下げようにも緊張で渇いた口内は引き攣るように痛むばかりで、焼け付く喉に顔を顰め、目撃者は祈るように上向き目を閉じた。
瞼の裏には幼馴染みの悲しむ顔。
既に彼は職員室に通い詰めと聞く。その上更に問題が発覚しては身が保たないことは容易に知れたし、何より責任感の強い律誠のこと、至らぬ自分を責めてしまうかも知れないと思うと、和哉には事を明かせる勇気はなかった。何より、これ以上彼を苦しめるものから彼を守りたかった。まるで子供の頃のように、今や自分の背丈を追い越してしまった委員長の、真直ぐな心を守りたかった。
律誠を追い詰めるものは俺が許さない───。
ひんやりとした空気を纏い、唇を噛む。
決意は新たな標的をも生んだ。
guys #09 に続く
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