guys #09
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薫風吹き抜ける5月。
漲る生命を象徴するかのように葉は茂り、日一日と天を目指す。競うように研鑽を積むテニス部部員の中でも、一際練習に没頭しているのは正式にレギュラーの座を獲得したばかりの和哉だった。
交流試合や公式戦など、他の部に比べたら試合数こそ多いテニス部ではあるが、団体競技ではない分選手枠の争いは厳しい。ただでさえ地元では有名な強豪校として選手層の厚い状況にあって、2年生になるやすぐにレギュラージャージに袖を通した例は過去数えるほどしかなかった。
だが、それは同時に伝統の重みも背負うことになる。初戦敗退など許されようもなく、持ち帰るのは優勝旗だけだと先輩から釘を刺された和哉に出来ることと言えば、地道な練習をおいて他にない。
それでも、その重圧を負ってでも、高校総合体育大会にシングルで出る名誉が和哉を動かしていた。それにこれは約束なのだ。自分がプレーしているのを見るのが好きだと笑った、幼馴染みの顔を思い出し、そっと唇を持ち上げる。
「……見に来てくれんだもんな」
小さい頃から欠かすことなく応援に来てくれていた律誠。腐れ縁だと揶揄ってもなお律儀にスタンドに足を運んでくれる彼を、誰より必要としていたのは自分だった。彼との約束があるからこそ辛い練習をこなすことに意味が出来た。───こんなことを言えば、彼は呆れ返って笑うのだろうけれど。
そう、こんな風に。
これまで誰も足を踏み入れたことのない自分達だけのセル。そこに突然現れた雪之の存在。先日の後ろ姿が象徴する己の中の負の感情にそっと目を閉じ、遣り過ごす。僅かに揺らいだ精神を集中するように彼の残像を追い出すと、和哉は再びトレーニングに没頭していった。
こんなことが、起きるのだと───。
和哉の試合当日。復学した雪之がまるで狙ったかのようにまた問題を起こした。
高校総体の間は選手は競技に参加するが、殆どの生徒は通常通りの授業を受ける。応援団やブラスバンド、特定の応援関係者を除き粛々と行われるそれが、浮き足だった学校の中でどれだけ退屈なものかなんて教師でさえ理解している。けれど、それに乗じ許されるはずはなかった。
試合直前になっても顔を見せない律誠を心配しながら打ち込んだサービス。ツメの甘い球は見抜かれ、すかさず左右に振られた。落ち着け、落ち着けと己に言い聞かせながらじっと前だけを睨み、相手の一挙手一投足、その呼吸にまでも神経を研ぎ澄ませる。けれどどんなに睨み付けても脳がそれを処理しない。反応の遅れる身体はまるで感情に支配されたように、不安だけを和哉に突き付けていた。
来るんじゃなかったのかよ、律誠……!
心の中で何度も呼んだ名前。決して返されることのない言葉。
気が付けば試合は終わっており、和哉の敗戦がそこにあった。実力からいって勝てなかった相手ではない。完全に自分を見失った結果だと項垂れる彼に、仲間のひとりが律誠は近くまで来ていたのだと告げた。
「会場図見てたの、他校の友達が見たって。制服だからすぐ分かったって」
「じゃあ、なんで……」
まさか迷ったのか、と言い掛けて和哉は口を紡ぐ。律誠に限ってそんな理由は成り立たない。そしてここまで来て踵を返す訳を自分はひとつしか思い付かない。
ハッと口を噤むレギュラーに代わり、友人は言葉を続けた。
「呼び出されたらしいぜ。……また、あいつだ」
瞼を閉じる。なおも現れる雪之の残像に和哉は奥歯を噛み締めた。幼馴染みを困らせ、苦しめ、追い詰めるだけでなく、ふたりの約束までをも邪魔をする人間は、自分にとって、そして律誠にとって忌むべき存在でしかない。
大敗を喫した悔しさと、大事な存在を取り上げられた喪失感で和哉の視界が黒く染まる。
雪之に対する敵対心がロックされた。
guys #10 に続く
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