guys #15
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まだ暑さの残る初秋。
少し動けば汗ばむ陽気の中、更にそれを煽るように熱を帯びてくる校内の雰囲気に誰もが浮き足立っていた。学校行事の一大イベントともいえる文化祭まであと1ヶ月と迫り、クラスの士気は徐々に高まっている。非日常的な空気が蜃気楼のように絶えず燻っては皆を高揚させていた。
けれど、クラスが一致団結すればするほど浮き彫りになる異分子の存在───雪之だった。
どの部活にも属していない、いわゆる帰宅部の彼の立場は、こんな時クラス展示の面倒な仕事を割り当てられる格好のターゲットであるはずなのに、授業の出席自体が危ぶまれる状況下、責任のある役目は回されることがなかった。未だ誰に対しても未だ胸懐を晒そうとしない問題児は、ひとりが好きだという態度を貫いているけれどその実、クラスに馴染めず、疎外感を感じていることを律誠は気付いていた。
何とかしたい。
このままではずっとこの状態が続くだろう。キッカケさえあれば。何かのチャンスが、彼の周囲に張り巡らされている目に見えない境界線を壊してくれるのではないだろうか。そうして一本道が出来たら、迷わず自分は進んでいって、戸を固く閉ざした彼の心が解かれるのを待つだろう。辛抱強く何度も、何度も、自分はその道を通うのだろう。やがて後ろに続く者が現れ、やがて戸口は開かれ、いつしかお互いを理解し合えるように───。
「……難しい顔してるよ」
突然の指摘にハッと顔を上げる。もう長いこと書き進んでいない日誌に掛かる人影、そのシルエットが級友の来訪を告げていた。
「どーしたのさ」
カタン、と椅子を引くと目の前の席に腰を掛ける。有栖が陣取った席の生徒は疎か、教室にはもう殆ど残っている者もない放課後。文化祭準備と称して皆が部材調達に出掛けている今日だけは静かな空間が戻っていた。
「申請は受理。準備は順調。それでも眉間の皺が消えないってことは、王子様のご機嫌が気になるのかな?」
「……ひ、比那?」
思わず瞠目した。動揺していると言っているような態度に、一瞬遅れた有栖が笑った。
「ビンゴ♪」
「何だ、王子様って。俺は別に何も……」
「ん? 俺は王子様が誰かも、律誠が気にしてるヤツかどうかさえ言ってないけど?」
「〜〜〜っ」
相変わらずジャーナリストは始末が悪い。伊達に観察眼が鋭いとこのザマだ。
むぅ、と黙りこくる委員長に苦笑しながら侘びた新聞部のエースは、それはさておき、と歌うように言葉を続けた。
「有沢だよね」
躊躇うことなく一度で言い当ててくる鋭さも、種明かしをした今なら逆に助かる。軽く咽喉を下げると、律誠は真直ぐ有栖を見返した。
「……何とかしたい」
「何とかって、どんな」
「それはまだ……見えてない。でも、このままじゃダメな気がするんだ」
「放っておけないってこと?」
「……そんなもんじゃない」
そう、この衝動はそんな対面的なものじゃない。そんな生易しいものじゃない。
「もっと知りたい?」
「知るだけじゃダメなんだ。知ってほしい」
少しでも早く、少しでも深く。
急き立てられるように言い募る相手を前に、まるで告白とも取れる言葉に耳を傾けていたジャーナリストは、しみじみといった風にゆっくりと息を吐いた。
「好きなんだねぇ……」
「な、ちが……っ」
条件反射的に否定した言葉は、けれど最後まで言い切れずに霧散した。それが羞恥のためか無自覚か、本人にさえ分からなかったけれど、それ以上に落ち着いた眼差しのクラスメイトによって現実に踏み止まらされた。
「じゃあ、探さないと。有沢も何かしないと全員でやったクラス展示になんないもんね」
「あぁ、そうだな」
必要とされること、期待に応えること。それを通して彼と周囲との距離が縮まり、結果的に全体の中で欠かせない存在となってくれることを願う。
窓の外、一面の秋晴れ。
答えを求めるように振り仰いだ視線の先、どこまでも続く青空がふたりを包んでいた。
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