cross #11
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落ち着いてみると、冬夜は昔の恋人に似ていた。
シンクで皿を洗う後ろ姿をぼんやりと見遣りながら、キリエは胸に巣食う思いから目を反らすことが出来ない。
白い肌、薄茶の髪。
瞼に残る彼女の残像。
キラキラとよく動く瞳が輝くに任せるまま、気が付いたら相手のペースに乗せられて笑っている。一緒にいると楽しくて、時の経つのをいつも忘れた。想いが募るほど口下手になる自分をよく理解し、包み込むように愛してくれた。幸福で満たされた時間。それがずっと続くと思っていたのに───。
かつて愛したその人は、吸血鬼に襲われて死んだ。
駆け付けた時には時既に遅く、冷たくなった首筋に見覚えのある後を見付けた瞬間の、あの憾恨を忘れることが出来ない。思い出すたび怒りと恐怖で指先が冷たくなり、自制が利かなくなるのが自分でも分かった。愛していた。愛していたのだ。この世界の誰よりも。守れなかった。守ってやれなかった。この世界で一番大事な人を。なんて無力な自分。なんて意味のない力。惨めで、情けなくて、遣り切れなかった。死んでしまおうとするのを、けれど身体が拒絶する。スレイヤーの宿命が邪魔をする。堪らなかった。逃げ道すら奪われていた。
中世の時代、吸血鬼は最大のタブー。
ゆえに彼女の葬列は徹底して行われた。吸血鬼に血を吸われて死んだ者は必ず吸血鬼になると言い伝えられ、様々な方法でそれを阻止しなければならなかったためである。
元来、死者が吸血鬼となる理由としては、生前犯罪を犯した、信仰に反する行いをした、惨殺された、事故死した、自殺した、魔女であった、人狼であった、葬儀に不備があった、何らかの悔いを現世に残している、死者の上を猫やその他の動物が横切った等々、実に多くの説が唱えられていたが、彼女の場合は犯行現場こそ目撃されていないものの首の痣がすべてを物語っていた。人々が怯えるのも無理はなかった。
何故なら吸血鬼は、相手の眼を見る、名前を呼ぶ、何らかの方法により血や生気を吸う等の手段によって人や家畜を殺したり、病気にする等の害悪を与えるとされており、力なき人々に抗う術は何もない。ならばそうになる前に徹底して被害の芽を摘むことぐらいしか残された道はなかったのだ。
予防措置の知識はあったし、スレイヤーとして何度かその場に立ち会ったこともあったけれど、自分の恋人の墓を掘ることも、亡骸を埋めることも、ましてや儀式をするなんて悪夢以外の何物でもなかった。墓に大量の黍を捲き、茨を敷き詰め、三日三晩墓の周りで火を焚き続ける。そんなひとつひとつの行動がキリエを追い詰め、蝕んでゆく。発狂しそうになっては彼女の写真を見つめ、愛しているよと呟く、その繰り返し。頬を伝う涙の熱さだけが唯一正気を保たせていた。
本当に、すべてが夢だったらどんなによかっただろう。
もう何百回そう願ったか分からない。憾悔の念に駆られ、現実世界を手放そうとしていたキリエには僅かな救いも与えらぬまま、狂った歯車は坂道を転げ落ちてゆく。
事態は最悪の結末を迎えようとしていた。
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説明事項が多くてすみません。サラッと読んでいただけるといいかと……。
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cross #12 に続く
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コメント
おつかれさまです!
あぁ、キリエの過去が少しだけ・・・
まだまだ、序の口なんでしょうねぇ?
キリエはきっと背負い切れない沢山の物を背負っている気がします。
冬夜も、ただもんじゃなさそうだし・・・
気になるところが一杯!!ニンマリ
うわーん
伽羅さま>
お忙しい中コメントまでありがとうございます〜〜!
何と言いますか、オリジナルキャラクタの名前を
人様に呼んでいただけるというのは凄い嬉しいものですね(恍惚)
そんでそんで、はい、キリエの過去ですが。
> キリエはきっと背負い切れない沢山の物を背負っている気がします。
あ〜分かっていただけたっ!! 嬉しいっ!!
これからどんどん出していきますよ〜〜。
冬夜は今のところノホホンですが、彼の闇の部分について
早く言いたくてウズウズしてます。あぁん!(笑)
そのうちガマンできなくなって毎日更新してたら
後ろ指差して笑ってください……へへ。
ではでは、コメントほんとにありがとうございました!!
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